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 惨劇の痕跡はほどなく見つかった。1階角部屋の105号室から外の駐車場にかけて、アパートの外廊下のコンクリート上に赤黒い染みが点々と落ちていたからだ。血痕は左右にジグザグに落ちていたので、刺された人はよろめきながら逃げたのだろう。

外廊下に落ちていた血痕のひとつ。2021年12月21日。撮影:郡山総一郎

 いっぽう、アパートの周囲には大量のペットボトルや発泡酒の缶と、生ゴミの袋が散乱し、ゴキブリの幼生が多数たかっている。さらには壊れた洗濯機やラジカセ、釣り竿、ビニール傘、ソファなどの粗大ゴミまで放置されていた。

 ゴミの山からは、無造作に捨ててある電気使用料や派遣会社からの給与振り込みの通知書も見つかった。住所はいずれも105号室だが、宛名は別々のベトナム人名。犯人のクィンとも異なる名だ。部屋に複数人で住んでいるか、最初の契約者がすでに帰国して、大家に無断で物件の又貸しが続けられているかだろう。

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 事実、他の部屋では取材当日(2021年12月21日)の「前日に来た」と話す25歳のベトナム人青年に出会った。彼の部屋も、電気代の請求先は別のベトナム人(女性)であるようだ。しかも年明け後の1月13日に私が再訪したときには、青年はすでにアパートから消えていた。

事件があった場所とは別の、25歳のベトナム人青年が住んでいた部屋。男性だけ住んでいると話していたのに、公共料金の請求名義は女性名だった。2022年1月13日。撮影:郡山総一郎

 流れ者的なベトナム人労働者たち──。過去の経験から考えれば、おそらく実習先を逃亡した技能実習生らが、入れ替わり立ち替わりで滞在する拠点である可能性が高いと思えた。

やはり逃亡技能実習生がらみの事件

「被疑者のクィンの在留資格は確認が取れていない。被害者男女4人については、在留資格がある人もない人もいた。技能実習生として来日した(後で逃亡した)人物もいる」

 所轄の竜ケ崎署に取材したところ、逃亡技能実習生と関係がある事件であることが確認できた。近年、北関東を中心に増えているボドイ(ベトナム人の不法滞在者)同士のトラブルだったのだ。

105号室の前に放置されていた緑色のソファにも赤黒い飛沫が。2021年12月21日。撮影:郡山総一郎

「動機は仲間内での金銭をめぐるトラブル。ギャンブルが理由という話もあったが、事実関係は現在も不明。被疑者・被害者ともに言い分が大きく食い違っており、詳細は捜査中だ」

「トラブルの内容は、被疑者側が責められるような性質のものだった。刺された被害者のほうが人数が多かったこともあり、(報復を受ける)心配があり立ち去ったのではないか」

所轄の竜ヶ崎署。交通安全を訴えるカエルがシンボル。実は事件現場のすぐ近くだ。2022年1月13日。撮影:郡山総一郎

 近年、逃亡技能実習生が同じベトナム人に騙されて多額の借金をつくり、返済を迫られて拉致監禁や暴行を受ける事件が多発している。一昔前の在日中国人のアングラ社会と同じく、異国の暮らしで一番危険なのは、現地人(=日本人)ではなく「同胞」なのだ。

 龍ケ崎市の事件のクィンも、やはり借金がかさみ、複数人から返済を迫られたことで「逆切れ」気味に刃物を持ち出したのではないか。再逮捕により本人への接見がいまだできていないが、今後の捜査による全容解明が待たれる。