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生々しい血痕とゴミの山…男女4人が刺された「限界移民アパート」惨劇の現場を訪ねてみた

2022/01/18

genre : 社会, 国際

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 昨年の年の瀬、2021年12月18日未明、茨城県龍ケ崎市出し山町の住宅街で凄惨な事件が起きた。男女4人が刃物で刺されたのだ。しかも犯人がその場から逃走したことで、近隣一帯は騒然となった。

 犯人は30歳のファン・ヴァン・クィン(同日深夜に神奈川県相模原市で警察に出頭、翌朝逮捕)。刺された28~31歳の男女4人も含めて、関係者全員がベトナム人だった。被害者のうち28歳の男性は腹部を刺される重傷を負っている。

 著書『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)をはじめ、コロナ禍のなかで困窮する在日外国人問題に切り込んでいるルポライターの安田峰俊氏が事件の現場を歩いた──。

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子どもの挨拶に「コンニチハー!」

「昭和の終わりごろに火事があって、焼け跡にアパートができたんですよ。最初は近くの流通経済大の学生さんが多く入居していたんですが、建物が古くなるといなくなって。5年くらい前から、外国の人がたくさん住むようになりました」

 事件現場のアパート付近で、まだ1歳半の孫を遊ばせていた年配の女性はそう話した。隣家の住民らしい。

事件現場のアパート。閑静な住宅街のなかにある。犯人のクィンは右奥の角部屋に住んでいた。2021年12月21日。撮影:郡山総一郎

 現場からは小中高校・大学などがいずれも半径1キロ以内にあり、裁判所や警察署・市役所も近い。郊外のベッドタウンの中心部で、子育て世帯も多そうだ。事実、近隣に住む30代の主婦からはこんな証言もあった。

「近所の友達に聞いたんですが、子どもが挨拶をすると、あのアパートの外国人の若い人たちがニコニコして『コンニチハー!』って返事してくれたって。まさか、あんな事件が起きるとは思わなかったっていうんです」

 朝になると、付近の郵便局の駐車場に派遣会社のマイクロバスが停まり、若い外国人労働者たちが乗り込む様子が見られたという。近隣には他にもいくつか、似たようなアパートがあるようだ。

アパートの入居率は5割ほど。ベトナムのほかに南アジア系の人たちも暮らすなど多国籍だ。2022年1月13日。撮影:郡山総一郎

 ごく普通のベッドタウンの住宅街に、ここ5年ほどで急速に外国人労働者のコミュニティが生まれ、広がりはじめた。今回は子どもと挨拶をする程度には地域社会との接点を持っていた珍しい例だが、やはりそれ以上の深い付き合いはなかった模様だ。

ジグザグに落ちている血痕と大量のゴミ

 事件現場のアパートを実際に調べる。スマホで賃貸情報サイトを確認すると、築33年(1989年3月~)の木造2階建てだ。10部屋ある各室の間取りはすべて1Kで、家賃は月1.5万~1.8万円程度である。