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生々しい血痕とゴミの山…男女4人が刺された「限界移民アパート」惨劇の現場を訪ねてみた

2022/01/18

genre : 社会, 国際

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大量発生するベトナム人の刃傷沙汰

 ところで、ベトナム人技能実習生やボドイが関係したとみられるケンカや刃傷沙汰は、本件に限らず近年多く報じられている。たとえば過去半年以内でも以下の通りだ(下記、注記がない限りはベトナム国籍で男性、年齢は事件発生当時)。

・2022年1月9日、愛知県豊橋市で31歳の技能実習生が同じ歳の同僚を刺殺。動機不明。
・2021年12月18日、群馬県大泉町で男性2人がカラオケ中、3人組の男に棒のようなもので襲われ、27歳男性が頭蓋骨骨折で意識不明の重体、30歳男性が重傷。
・2021年11月3日、香川県丸亀市で40歳男性が同僚とみられる28歳男性に斬りつける。
・2021年10月17日、愛知県豊橋市で22歳の技能実習生が23歳の友人を刺す。

鉾田市の殺人事件現場の付近の農園(事件があった場所とは別)。ベトナム式の傘帽子ノンラーをかぶって作業に従事する外国人の若者の姿が各所でみられた。2021年9月17日。撮影:郡山総一郎

・2021年10月13日、茨城県八千代市でともに25歳の技能実習生2人が、飲食をともにした外国籍の男に刃物で斬りつけられる。
・2021年10月12日、富山県南砺市で38歳の技能実習生がルームメイトの30代男性の首を斬りつける。
・2021年9月7日、茨城県鉾田市の農場で27歳の男性が、同僚である30歳のボドイを刺殺。
・2021年8月18日、長野県川上村で技能実習生の22歳男性と26歳女性が、知人とみられる男性に斬りつけられて発見される。
・2021年7月7日、さいたま市でアルバイトの34歳男性が同僚の27歳男性と35歳女性を刺す。

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和歌山県田辺市のボドイ刺殺現場。仲間内での宴会中にトラブルがあり、犯人はほぼ初対面の相手を刺殺した模様だ。2021年5月20日。撮影:郡山総一郎

 これらの他にも、以前私がレポートした2021年5月12日に和歌山県田辺市で起きた殺人事件、2020年8月に三重県で起きた、河原でバーベキュー中のベトナム人技能実習生ら10人とカンボジア人技能実習生7人がトラブルになりカンボジア側の7人が殺人未遂で逮捕された事件など、類似のトラブルはかなり多い印象がある。

逮捕しても仮釈放、そして再犯

「ベトナム人に限らない話ですが、ここ数年で外国人がらみの事件や事故が増えた肌感覚がある。コロナ禍で帰国が困難になり、追い詰められた人が増えているとも感じます。これまでギリギリの線で抑えられていたものが、コロナ禍であちこち一気にシワ寄せがきている印象なのです」

 近年、取材の過程で知り合った警察関係者の1人は「個人的な意見」と前置きしたうえでこう話していた。

過去の取材で出会った、見事な入れ墨を入れた逃亡技能実習生の23歳男性。地下カジノでMDMAとケタミンを所持しており逮捕されたが入管の仮釈放を受け、いまも自由の身。2021年9月17日、土浦市内にて。撮影:郡山総一郎

「苦労して容疑者を捕まえて検察官に送致しても、結果的に入管送りになるだけ。しかも、入管が彼らを収容できなくて仮釈放を与え、それで出てきた人たちが再犯する──。このループを目の当たりにしていると、複雑な気持ちになりますよ」

 日本の入管収容施設は、収容者への虐待や非人道的対応で悪名高いが、いっぽうでコロナ禍以降は海外渡航が困難になったことで外国人の強制退去が難しくなり、施設の収容キャパシティは限界を迎えている。結果、それがいっそう事件や事故の多発を生んでいる。