令和4(2022)年1月10日、『ドカベン』(’72年)や『あぶさん』(’73年)、『野球狂の詩(うた)』(’72年)などの、いわゆる“野球漫画”の大ヒットシリーズで有名な漫画家、水島新司先生が肺炎で亡くなった。享年82歳だった。
『ドカベン』では、高校どころか中学野球(しかも柔道部時代のエピソードから!)から始まり、キャラクターたちのプロ入り後以降まで。『あぶさん』では、主人公のあぶさんこと景浦安武選手の現役期間37年もの現役生活を、40年以上の長期連載で描いた。『野球狂の詩』では岩田鉄五郎選手を筆頭に“野球狂”たちの野球愛と人生を描き、こちらも長期連載に。“野球”というワンジャンルで幾つも長期連載を抱えた、世界的に見ても唯一無二の作家だった。
新潟市の鮮魚店に生まれ、野球マンガの重鎮へ
水島先生は、1958年に貸本漫画誌「影」に投稿した『深夜の客』でデビュー。その後、喜劇俳優・大村崑主演の公開ドラマ番組『番頭はんと丁稚どん』(’59年)のコミカライズ等、幅広いジャンルの作品を手がけていた。
その後、野球の世界を描いた『エースの条件』(原作:花登筐/’69年)、『男どアホウ甲子園』(原作:佐々木守/’70年)等を経て、’72年に連載開始した『ドカベン』で一躍全国区に。
そして『一球さん』(’75年)、『野球狂の詩』、『あぶさん』、『ダントツ』(’82年)、さらに『ドカベン』をはじめ“水島版アベンジャーズ”ともいうべき『大甲子園』(’83年)を執筆。後世に残る数多くの野球漫画を創出した。
2020年12月1日には漫画家生活63年にピリオドを打ち、引退を発表したが、諦め切れないファンたちが先生の復帰を今か今かと待ち望んでいた。そんな矢先の訃報で、ファンならずとも遺憾の想いは同じだ。
野球漫画でヒットを飛ばすまでの先生の半生は、’74年に第19回小学館漫画賞を受賞した『出刃とバット』(『男どアホウ甲子園』も同時受賞)という中編読み切りに描かれている。新潟市の鮮魚店の次男に生まれた水島先生は、家庭の事情でプロ野球選手になる夢を断念。水産問屋に丁稚奉公して実家に仕送りする傍ら漫画を描いたところ、それで食べていけるようになったという。