プロインタビュアーの吉田豪さんが、雑誌「Number」で“あぶさんと岩田鉄五郎のスペシャル対談(!)”記事を書かれた際にも、水島先生が眼前であぶさんと鉄五郎のひとり二役を演じ、それを仕切られたことを“不思議な体験”として述懐されていた。水島先生はいわゆる憑依型の作家で、“シャーマン資質”をお持ちの方だったのだろう。だからこそプロ野球関係者からこぞって“球界の予言者”と呼ばれるようになったのだ。
「そう、あいつあんなに呑んでたのに…」誰のことかと思うと…
かくいう筆者もその片鱗を垣間見た瞬間がある。
取材がいち段落して小休憩に入った時のこと。先生がぽつりと「最近めっきり呑めなくなってね……」とつぶやいた。
私も編集者も「え? 先生は下戸(げこ)のはずでは?」と突っ込むと「もちろん俺は呑めないよ。あぶのことだよ」。「あぶ……ああ、景浦選手のことですか!?」と、こちらもつられて実在の選手のように返した。
「そう、あいつあんなに呑んでたのに……やっぱ病気(ヘルニア)と歳には勝てないのかな?」としみじみ。思わず編集担当と顔を見合わせた。
とっさに、先生が作曲家の京建輔先生との打ち合わせ時に、京先生のご自宅でコーヒー20杯でひと晩飲み明かされた逸話を思い出し、その旨告げると「俺はコーヒーなら100杯でもいけるよ~」とおっしゃった。思わず「コーヒーでもそんなに飲んだら体壊しますって!」と返すと「そりゃそうだ」と笑っておられたが、初対面に近い相手でもそんな会話のできるお人柄だった。
ある意味、自分のことよりも自分の生んだ架空のキャラクターの体調までをも心配されていたわけだが、そこに先生が本来持つ優しさと温か味、“昭和の人情”の世界を感じさせる。プロ野球界や人間のリアリズムを追求する以上に“人に対する溢れる愛情”こそが水島漫画が約半世紀以上愛され続けるゆえんではないだろうか?
一度は諦めたプロ野球の夢を、もうひとつの夢である漫画の世界でかなえ、まさに“想像は現実を超える”を体現された水島先生。天国で、あぶさんのモデルになった景浦將、藤村富美男、それに香川伸行ら亡くなった元名選手たちと、ドカベン、あぶさん、水原勇気らご自身の描かれたキャラクターたちとのドリームトーナメント、夢の球宴を楽しそうに監督されているお姿を夢想してやまない。