「ひょっとして、先生は甲子園が大阪にあると思われてません?」
筆者も生前、取材時に水島先生のお人柄に触れたことがある。
先生が“漫画”作りの面白さに目覚めたのは『男どアホウ甲子園』の時。主人公の高校野球児・藤村甲子園が見事甲子園出場を果たし、池畑三四郎ら並み居るライバルたちとマウンドで火花を散らす、という物語だった。
原作は、当時大ヒットした柔道ドラマ『柔道一直線』(原作は梶原一騎)の脚本を書かれた佐々木守先生だったが、その原作原稿のト書きに、いつも“大阪城の隣りに甲子園が見える”と書かれており、水島先生はそのことが腑に落ちなかったという。
あるとき意を決して佐々木先生に「ひょっとして先生は、甲子園が大阪にあると思われてません?」と聞いたところ「え、ないの!?」と逆に驚かれ、聞いた水島先生もびっくりされたとのこと。
何しろ佐々木先生は自らスポーツ音痴を明言。『柔道一直線』も『男どアホウ甲子園』も作品が決まってからそれぞれ「柔道入門」、「野球入門」を読んで初めてルールを知ったという“つわもの”だった。
そのことを知った水島先生は、それまで現実の野球ルールに縛られていたご自身を猛反省。“柔道や野球を知らないからこそ、あれだけ自由な発想でキャラクターや物語を描けたんだ”と、漫画における作家の“イマジネーション”の大切さを痛感。こうした経験から、後の『ドカベン』の岩鬼や殿馬、里中ら名キャラクターが誕生したという。
下書きとペン入れ後で変わったストーリー「あれは本当に僕も驚いた」
伊集院光さんのラジオ番組にゲスト出演された際、“『ドカベン』を描いていて驚いたこと”として、「ネーム(下書き)を描いているときは三振した岩鬼がペン入れしたらホームランを打っちゃった」と答えられた話は有名だが、このことを取材時にツッコむと、
「あれは本当に僕も描いていて驚いた。本当にドカベンが現れた(元ダイエーホークスの香川伸行選手のこと)時も驚いたけど、キャラが僕の想像を超えて動き出しちゃうとホント、びっくりするね」
と語った際に浮かべた、はにかむような笑顔が忘れられない。