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創業66年“荻窪の老舗食堂”で何が起きている? 店を引き継いだ一人娘が「ラーメン」を復活させるまで

B中華を探す旅――荻窪「ことぶき食堂」

2022/01/31

genre : ライフ, グルメ

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 続いては、新たな人気メニューである「ブタカラサンド」がお目見えする。順番がおかしい気もするが、これはどうしても食べてみたかったのだ。見るとパンがうっすらと赤みがかっている。

 のりこさん「これは南口の『モモヤ』さんっていう、奥様がひとりでやられてるレトロなお店のパン。トマトが練り込まれていて、色がかわいいなあと思ってこれにしたんです」

 

 とくにトマトの味が強いわけではないが、たしかに見栄えがかわいらしい。そしてふんわりとしたパンは、意外なくらいブタカラとの相性も抜群。これだけでもビールがぐいぐい進んでしまう。

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ラーメンスープを使った「本格カレーライス」

 さて、食べたいものはいろいろあるが、やはりチャーハンは外したくないところだ。そこでチャーハンと、江口先生のリクエストでカレーライスもお願いする。ビールをハイペースで空けていたら、まず先にチャーハンが、次いで予想以上に本格的なカレーがお目見えした。

 江口「紅ショウガの赤さがいいね。それにタマネギもいい感じ。うん、おいしい。で、こっちのカレーは、中華カレーなんだよね?」

 のりこさん「ラーメンスープを使ってるんですよ。スープは鶏がら、豚骨、煮干し、それと杉並公会堂向かいにある『松葉屋』という問屋さんから仕入れているオリジナルブレンドの削節でとっているんです」

 江口「すごいな、これ。ダイコンやレンコンも入ってるんだね。うん、うまい。和風出汁を使ってるから独特だよね」

 
 

 のりこさんが手伝うことになり、営業を再開したのは2021年9月13日のこと。ラーメンスープのつくり方など先代からのノウハウを生かしつつ、以前はなかったアイデアを積極的に取り入れ、新たな個性を発揮している。

 のりこさん「父は去年の8月ぐらいに脳梗塞で倒れて、お店に立てなくなっちゃって。だからバイトの方に来ていただいて何人かで回してたんですが、入院して、もうどうにもこうにもならないので……いやいやながらも手伝い始めたんです」

 そもそも多感な学生時代は、実家に対して否定的な気持ちもあった。

 のりこさん「女子高生のときは『食堂の子』っていうのが嫌でしたね(笑)。食堂というキーワードがもうかわいくないんで。それであんまり好きじゃなくて、思い入れもなかったんですけど」

 なのに、結果的には店を引き継ぐことになったのだから不思議なものだ。

 

「ラーメンづくりって、すごい重労働なんです」

 のりこさん「子どものときからちょっと手伝ったり、お皿を下げたり、洗ったり、店番したりとかはしてたんですけど、父が倒れたことが大きな分岐点でした」

 もともとは編集やライティングなどの仕事に就いており、結婚して子どもを産んでからは専業主婦に。食堂の仕事とは縁遠かったにもかかわらず新たな店主になったわけだが、困難は多く、そのひとつがラーメンだった。

 のりこさん「最初、ラーメンも引き継がなきゃと思ってがんばってたんです。でもラーメンづくりって、すごい重労働なんですよね。ほんとに重くて、熱いし、やけどもするし、腰も痛いし。いまメインは私と母なんですけど、母もその仕込みで膝を痛めましてね。歩けないぐらいになって、膝の手術まですることになったので、それを見てて、『できることとできないことが人にはあるんだ』って思ったんです」