のりこさん「若くておしゃれな女の子が1人で来たりとかするんですよね、最近。だからびっくりするんですけど。すごく髪の色をかわいくしてる子の横で、道路工事のおじいちゃんたちが食べてるみたいな」
江口「それ、最高だと思うけどね」
のりこさん「そのバランスがすごい難しいですよね。だから、そういうことも含めて、今後どうするのがいちばんいいのかは全然わかんない(笑)」
伝統と変化が生む“ギャップ”
現在は日中だけの営業なので、ふたりのお子さんが学校に行き、ご主人が会社に行っている間に仕事を終わらせることができる。夜も営業をするとなると大変かもしれないが、現時点ではうまく回っているともいえそうだ。
のりこさん「でも、もういっそ、外の『ラーメン』っていうちょうちんも外しちゃおうとか話してて。のれんも、もう変えたいなとか思ってるんですよ」
江口「いや、それは変えなくていいんじゃない?」
私も同意見だった。店主が替わり、店の雰囲気も変われば、ちょうちんやのれんはたしかに似合わなくなるのかもしれない。しかし逆にいえば、そのギャップがおもしろいのだ。なにしろ、こういう店はあまりないのだから。
のりこさん「でも、中華が全然ないんです、いま」
江口「全然いいよ。いいじゃん、それで」
長い伝統を持っている店であればあるほど、変化の時期には反論が出てくるものだ。「あの店は変わった」とか、「もう行かない」とか。しかし、“ディスられ”たとしたら、それは大成功だとも解釈できるのではないだろうか?
「チャーハンの味から個性が消えた」
のりこさん「いわれたことはありますよ、『チャーハンの味から個性が消えた』とか(笑)。父のレシピのままやってるんですけど、やっぱりつくり手が替わると変わる部分はあるんです。私がつくっても違うし、母がつくっても違うし」
江口「そういう話、よくあるよね。でも、そういうものじゃないかな。常連さんも、なにかいいたくなるんだろうけど(笑)」
のりこさん「そうなんですよ。30年ぶりに来たという人から、『おじさん元気ですか?』って聞かれたりすることがあるんです。そういう人が『懐かしい』って食べてる姿を見ると、『続けなきゃ』みたいな気にはなりますよね」
「ラーメン」というちょうちんがあるのにラーメンがないとか、ブタカラサンドに力を注ぐとか、そういうアンバランスな感じ、いいかえれば“ツッコミどころ”は武器にもなるはずだ。少なくとも「ことぶき食堂」のこれからに関しては、そこが強みだと感じる。