だが、続けなければという思いもあったため、町中華の概念を知るために勉強を重ねた。たどり着いたのは、「(町中華とは)店主が自由にやっている店」だという結論。「私が引き継ぐことになりそうだから」という思いから、「やれること、出したいものはなにかな?」と考えた。
のりこさん「うちにはブタカラがあるから、体に負担のかかるメニューはいったんやめて、いままでとは違う形でちょっとやってみようかなと。ダメならダメで叩かれてもいいやって思ってやってみました。カレーを始めたのもそのころで、(2021年の)7月ぐらいですね。母がいよいよ入院して私だけになったとき、『やりたいことをやらないと』と思って」
そうやって誕生したのがブタカラサンドだ。当初は周囲の人たちから「誰もことぶきにサンドイッチなんか求めてない」と反対されたりもしたが、出してみたところ評判は上々。そこで、躊躇していたカレーも出してみることにした。
ラーメンは引き継ぎたいけど……
江口「俺が初めて来たときは、まったくそういう評判とか知らなかったんです。ただね、名前が同じ『ことぶき』じゃん。だから、千葉の実家に帰るときに車でここを通るたび、ずっと気になってたの。2016年、5年前ですよ。それで、雑誌の取材で『どこか行きたい定食屋はないですか?』って聞かれたので、『じゃあ、ことぶき食堂に行きたい』って。そのときブタカラにびっくりしちゃって、『なに、これ?』って。衝撃的だったね」
のりこさん「『同じ名前で気になってた』ってお聞きして、いい名前をつけたなって感じました」
しかし、それでもまだ迷いは残っている。
のりこさん「これでいいのかなって、日々葛藤はあるんです(笑)。父がつくったラーメンをおいしいといってくださる方もいらっしゃるので、それをやめちゃうのはちょっとなと思うし、引き継ぎたいなあっていう気持ちはあって。でも大変すぎるなあっていうのも事実で……」
素人考えだが、大変なラーメンづくりのために人を雇うというような選択肢はないのだろうか?
のりこさん「考えてなくはないんですけど、人を雇うってなかなか怖いですよね。いま、もともと常連さんだった方や、その方のママ友、私のママ友とか、本当に気心の知れたメンバーでうまく回ってるので、まったく知らない方を入れて、関係を築いてというのもちょっと大変かなって思ったりもしてるんですけど」
厨房内に女性ばかりいらっしゃったのは、そういう事情なのだった。ママ友や常連さんなどとの厚い信頼関係のもとに現在の「ことぶき食堂」は成り立っていたのだ。しかし、そこにもまた思うところがあるのだという。
薄れつつある“中華感”への葛藤
のりこさん「なんか、この店構えと店内のギャップがひどいみたいな(笑)。まさかお客さんは、店内に女性ばかりがわらわらいるとは思わないだろうなって。お客さんは男の人が中心なのに。だから、悩んでます、いま」
ここでお母様が、「のれんもね」と加わってくる。のれんに「中華」と書いてあるにもかかわらず“中華感”は薄れつつある。つまり店は変わりつつあるのに、昔ながらののれんを出し続けていいのか葛藤しているのだそうだ。
江口「でも、いいんじゃないですかね、別に。それだけ、店は変わっていくものだから。メインの人が替われば、変わりますよ。変わっていかないとね」
そのとおり。変わっていかなければいけないし、おそらくそれを望んでいるファンも少なくはないはずだ。事実、離れていったお客さんがいる一方で、女性1人客など新しいお客さんも増えているという。