昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

創業66年“荻窪の老舗食堂”で何が起きている? 店を引き継いだ一人娘が「ラーメン」を復活させるまで

B中華を探す旅――荻窪「ことぶき食堂」

2022/01/31

genre : ライフ, グルメ

 JR中央線の荻窪駅北口から数分。環状八号線と交差する「四面道」交差点を向こう側に渡ってから右に数十メートル進むと、「ことぶき食堂」にたどり着く。

 名物の「ブタカラ(オリジナルのタレをかけた豚肉肩ロースの唐揚げ)」で有名な、1956年創業の老舗食堂。もちろんラーメンのクオリティも高いため、これまでにも町中華ファンを魅了してきた。地味に(そして無駄に)「B中華」というカテゴリーに執着する私にとっても重要な店だ。

 ところが数年前、84歳と高齢のご主人が体調を崩してしまった。そのためしばらく休業していたのだが、昨年秋にニュースが舞い込んできた。一人娘の白石のりこさんが、店を引き継ぐことになったのだった。

 ただ、再開に際しては悩みも多かったようだ。

 

「私を含めて女手だけでやっていこうとすると、メニューも含めて、父のやっていたあの雰囲気を出すのは難しくて……」

 たとえば、ラーメンを続けるのは体力的に難しいようだ(このことについては後述する)。だが代わりにというわけでもないが、人気のブタカラを使った「ブタカラサンド」、和風出汁を使用したスパイスカレーなどの新メニューも加わることになった。少しばかり雰囲気は変わったものの、“新生ことぶき食堂”として生まれ変わろうとしているのである。

 そこで2021年末、私が35年以上お世話になっている大先輩であり、やはりこの店のファンでもある漫画家/イラストレーターの江口寿史先生とともに「新生ことぶき食堂」を訪ねてみた。

とりあえずビールとポテサラを!

「俺、このために昼抜いてきたからね(笑)」

 江口先生からも期待感が伝わってくる。

 磨りガラスの入ったアルミサッシの引き戸に、「中華 定食」の文字が白く抜かれた赤いのれん、その上のオレンジ色の日除けには「ラーメン・定食お食事処」の文字も見える。つまり外観だけを見れば、以前のこの店のままだ。

 
 

 だが、ふと目を横にやると小さな変化にも気づく。「ブタカラサンド」や「スパイスカレー」をカラフルに紹介したカフェ風の立て看板が出ているのだ。さらに意外だったのは、スタッフの多さ。お母様とのりこさんに加え、のりこさんのママ友だという女性が数人、忙しそうに厨房で動き続けているのである。

 ともあれ左奥のテーブル席に落ち着き、「とりあえず」とビールを注文。一緒に出てきたお通しの漬物からして、文句なしにおいしい。お通しがおいしい店はそれだけで信頼できるが、続いて登場したポテサラも、見た目からして魅力的だ。ブタカラチップが載り、細かい青ネギがちりばめられている。

 江口「このポテサラがもう、スペシャルだよね。ビールに合うんだ。ブタカラの揚げカスの有効利用(笑)。それプラス細ネギが効いてる。おいしいに決まってますよ。うん、これはうまいわ」

 

新たな人気メニュー「ブタカラサンド」

 おっしゃるとおり、たしかにビールが進む味だ。ちなみに飲みながら舌鼓を打つ我々の隣には、黙々と定食を食べる人も。これぞ、この店ならではの光景だ。

 江口「ここに来る人は肉体労働派の方が多いんだけど、みんなご飯をたくさんよそってるね、ほぼ9割(笑)。俺もハムエッグ定食がすっごい好きだったな」