女性の社会役割の変化という視点に注目
100年の物語というと壮大に聞こえますが、大河ドラマ「晴天を衝け」の渋沢栄一の生涯は91年。朝ドラ「カーネーション」のヒロイン・小原糸子のモデルになったコシノ三姉妹の母親である小篠綾子の生涯は92年。一代記でも、100年に近い物語というのは作れます。では、なぜ3世代ヒロインをつくったのか。
そこで思い出されるのが、2000年の夏、3夜連続のスペシャルドラマとして放送された「百年の物語」(TBS系)。脚本は橋田壽賀子、山元清多、遊川和彦という、これまでTBSドラマを支えてきた3人がリレー形式で執筆。女性の生き方は100年の間に大きく変化したことをテーマに、大正から平成にかけて、母、娘、孫、曾孫とそれぞれの世代を通して“100年”を描ききったもので、母、娘、孫のそれぞれを主演の松嶋菜々子が演じ分けていました。
特に第1夜に「大正編」でヒロインを待ち受けるのは、政略結婚、虚偽の姦通罪、無許可の堕胎による投獄……という凄まじい展開。描かれていたのは女性にさまざまな権利が与えられていなかった時代の主人公が、懸命に苦難を乗り越えようとする姿でした。そして第2夜、焼け野原と化した戦後を生きる娘の物語へと続いていきます。
安子編を観ていて気づきました。「カムカム」も女性の社会役割の変化をしっかり描きたいのではないかと。3世代、3人のヒロインがいれば価値観の変化を表現しやすいですから。つまりこの物語は家父長制と男性優位社会下で生きてきた数多の女性たちの百年史とも言えそうです。
女性とは、子を産み育てる人。母として無償の愛を与える人。妻として夫のために尽くす人。男性の補助的な役割のみ担当していればいい人。社会からそう押し付けられてきた女性たちが、その呪縛から開放され、権利を取り戻す物語という裏テーマが見えてくるような気がしています。