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「日本はどれぐらいですか?」「日本語上手ですね」…日本で生活する“外国人”が“善意の言葉”をかけられて感じる“複雑な気持ち”の正体

『日本移民日記』より #1

2022/02/15
note

日本社会が私に担わせる「外人役」

「モーメント君みたいな人々が堂々と自分らしい日本語を話していけばいい」と言われるかもしれません。まあ、一つの答えにはなるかもしれませんね。分かります。たしかに、私がアーティストのMoment Joonとしてやっていることは、日本社会が私に担わせる「外人役」を拒んで「俺こそが普通の人間だ」と宣言することです。実際に存在しているのに日本社会の大多数には知られていない(もしくは意図的に無視されている)現実を、テレビで、ラジオで、歌で、オンラインで、文章で見せていくしかありません。厚切りジェイソンよりもモーメント・ジューンがテレビに頻繁に映り、なまっている日本語で話しても「ステレオタイプ」じゃなく1人の人間として日本社会に存在する時代。それで「普通」の範囲が広がる時代を、頑張って作っていかなきゃ……。

 しかし、コンビニで店員さんに「袋要りますか」と聞かれるだけで緊張してしまう人間キム・ボムジュンは、そんなファイターなんかになりたくないのも事実です。ただ「普通」で存在したいだけなのにファイターにならなきゃいけないなんて……戦っていくとしても、それ自体が1つのキャラクターになって消費されて終わってしまう可能性もあります。皆さんもある意味、そのような感覚で私の変わった日本語の文章を読んではいませんか?

 まあ、口を開いたら「普通」の資格を奪われる私の経験なんか、見た目から「違うもの」と認識される白人である私の彼女の前では贅沢な悩みかもしれません。街中で知らない人から「外人ですか?」といきなり聞かれたことがある彼女は、そこで「はい、外人です」と答えたらしいです。ちょっと待って。これはひょっとしたら手がかりになるかもしれません。大したファイターにならなくてもできる、「日本語」の独立運動の手がかり。

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善意の日本語母語話者 へ~、モーメント君、日本10年目なんですね。いや、めっちゃ日本語上手ですね。

モーメント いや、そちらこそ上手ですね。

善意の日本語母語話者 ???

 いたずら、と思われるでしょうか。いや、相手の褒め言葉にこっちも褒め言葉で答えただけです。そして何より、善意の言葉ですからね。日本語上手のあなたに、栄光あれ。

【続きを読む】「私は“在日”なんでしょうか」韓国出身、大阪在住…“移民”として生きるラッパーが辿り着いた“チョン”という蔑称への思い《大衆音楽の差別語を分析》

日本移民日記

MOMENT JOON

岩波書店

2021年11月29日 発売

「日本はどれぐらいですか?」「日本語上手ですね」…日本で生活する“外国人”が“善意の言葉”をかけられて感じる“複雑な気持ち”の正体

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