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「私は“在日”なんでしょうか」韓国出身、大阪在住…“移民”として生きるラッパーが辿り着いた“チョン”という蔑称への思い《大衆音楽の差別語を分析》

『日本移民日記』より #2

2022/02/15

 韓国出身・大阪在住のラッパーMoment Joon氏は、韓国での懲兵体験や、入国管理局の差別的な対応など、現代社会の諸問題にもつながるさまざまなトピックをリアルに歌い、シーンの内外から注目を集める存在だ。そんな同氏が大阪大学音楽学研究室の修士論文執筆にあわせて研究したテーマは「アメリカと日本の大衆音楽における差別用語の使用(主にヒップホップを中心に)」だった。

 ここでは、同論文の一部が収録されたMoment Joon氏の著書『日本移民日記』(岩波書店)を抜粋。楽曲における差別用語使用を「誰が何を指すために用いるのか」という軸で行った分析、そして「日本のヒップホップにおける差別用語の使用事例」の実態を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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Moment Joonの「チョン」

『差別用語の基礎知識’99』は「チョン」の起源を「バカチョン」であるとして、それ自体には朝鮮人と関係する意味はなかったが、朝鮮人に向けた否定的な文脈での使用を通して差別的な意味合いが与えられたと推理しています。

 朴君愛の論文「在日コリアン女性への差別とエンパワメント─ミドル・エイジの当事者の語りを通して見えたもの」(『女性学研究』21巻、2014)では、破損のあるカバンを「チョンカバン」と呼ぶ使い方が数十年前に存在したことや、またその呼び方が、朝鮮・韓国系の人と結びつけて否定的に使用するものだと理解している、ある在日朝鮮人の証言を匿名で紹介しています。

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 また『差別用語の基礎知識’99』は1991年に信州大学経済学部の客員教授が女性のパートタイム労働を「バカチョン」と呼んだ事例を紹介しています。この事例や先ほど挙げた証言、「バカチョンカメラ」という俗称などを総合して考えると、「チョン」には朝鮮・韓国系の人に対する差別的な意味と、対象を朝鮮・韓国系の人に限らない否定的な意味が混在していたことが類推できます。

 しかし、少なくとも2010年代以降の日本で「チョン」が朝鮮・韓国系に対する差別用語として機能しているのは確かな事実です。高史明は「日本語Twitterユーザーのコリアンについての言説の計量的分析」(『人文研究』183号、2014)という研究で、2012年11月5日から2013年2月16日の間で、日本語のツイッター使用者による朝鮮・韓国に関する11万3189件のツイートの中から、「在日」「韓国人」「朝鮮人」「チョン」のいずれかを含むものを収集して分析しています。集められたツイートの頻出語を検討した結果、「韓国人」「在日」「朝鮮人」「日本」「韓国」「日本人」の次に頻度の高い単語は「チョン」でした。このような資料は、朝鮮・韓国や朝鮮人・韓国人を否定的に描写する時に「チョン」が頻繁に使われているという認識を裏付けています。