文春オンライン

「私は“在日”なんでしょうか」韓国出身、大阪在住…“移民”として生きるラッパーが辿り着いた“チョン”という蔑称への思い《大衆音楽の差別語を分析》

『日本移民日記』より #2

2022/02/15
note

楽曲における差別語使用の分類

2020年にリリースされた『Passport&Garcon』。楽曲はApple MusicやSportifyなど各種配信サイトで視聴可能

 その起源に関しては様々な説があるにもかかわらず、インターネット時代に再び差別用語としての力と地位を得ている「チョン」。このような状況を背景に、私の「チョン」の使用について考えていきたいです。私が「チョン」を使ったのは全部で11曲ですが(未発表曲まで数えると23曲)、その中から以下にいくつかを紹介します。

 

OI(外集団→内集団)否定型の使用

・「KIX/Limo」(2020)の場合、「「あのクソチョン」と言われちゃった前のFuckingバイト」と、他人の使用した「チョン」を「引用」することで、他人(外集団)によって「チョン」と呼ばれる場面を描写しています。

ADVERTISEMENT

・「IGUCHIDOU」(2020)の場合、曲の終盤に客演アーティストを登場させて、「チョン公が日本のことについて何をごちゃごちゃ言うとんねん」というセリフを、他人の声で挿入しています。ラッパーのウシ君の名演技でできたこのスキット(寸劇)は、より明確なOI否定型の用法として分類することができるでしょう。

II(内集団→内集団)否定型の使用

・「KIMUCHI DE BINTA」(2020)は、タイトルでも分かるように日本社会の朝鮮・韓国系に対する偏見が前面に現れている曲です。曲の前半、私は作り上げた低い声で韓国人に向けられた悪いステレオタイプを演じて(「部屋には食用の犬」「部屋の匂いはにんにく」)、また在日朝鮮人・韓国人に関する陰謀論の内容もそのまま事実であるように歌っています(「俺の社長は在日/パチンコで儲けて日本を滅ぼすため頑張ってる金持ち」「土曜日みんな梅田で会って日本を滅ぼす陰謀を立てた後はパーティー」)。

 後半は曲調をメロウなものに変えて、悲しげな声で「説明しても無理/チョンである罪/違うと言っても俺のことは見えないふり」と歌っています。ここで私は「チョン」のステレオタイプが事実ではないことを説明していますが、それでも自らを「チョン」と呼ぶのは、少数者の声は無視され否定されるという社会的スティグマを見せるためであります。

 これは、Power DNA(編集部注:フランス生まれ長崎県在住のラッパー)の「外人」の使用や、Nワード(編集部注:黒人を意味する ni**er,ni**a という蔑称。黒人同士で親しみをこめて使用する場合もあるが、一般的にはタブーとされている語)のII否定型とも共通する用法で、該当用語が意味する否定的なイメージをその個人に投影せずとも、彼らが社会的に置かれている状況を見せることで、社会的スティグマを見せています。つまり、「チョン」ではないにもかかわらず自らを「チョン」と自嘲的に呼ぶことで、私が置かれた状況を見せたかったのです。したがってこの場合の「チョン」の使用はII否定型と分類できるでしょう。

・「Home/CHON」(2020)のサビの歌詞は「My Home仕事終わったあと帰る唯一のHome/俺はチョン 家に帰った後も「帰れ」と言われるチョン」です。この場合の「チョン」を使った自己定義も、「チョン」の否定的なイメージが自分に当てはまることを認めるのではなく、むしろその言葉が表す社会的スティグマを描く自嘲的な使い方で、II否定型と分類できるでしょう。

II(内集団→内集団)裏返し型の使用

・KEN THE 390「Nobody Else」(2019)に客演で参加した際の歌詞では、「海を渡ってきたチョンの麒麟児」という表現を使っています。韓国・朝鮮系に対する蔑視的な意味以外にも、本来「愚かな」という意味を持つ「チョン」に、「天才」を意味する言葉を結びつけることで、既存の否定的な意味を裏返すことを意図していて、これはII裏返し型と分類できるでしょう。

・「#AOTY2020 Freestyle」には「日本語ラップのベストアルバムを作ったのはチョン」という歌詞があって、これは私自身を指しています。「チョン」である自分が注目すべき成果を手に入れたと自慢する内容であって、これもII裏返し型と分類できるでしょう。

・「TENO HIRA」(2020)には、「感じてる 俺の中の彼のルーツを/だからこのクソチョンこそ日本のヒップホップの息子」という歌詞があります。「彼」とは2018年に亡くなったECDさん(編集部注:伝説のヒップホップイベント「さんぴんCAMP」のプロデュースも務めるなど、日本語ヒップホップ黎明期から活躍を続けたラッパー)で、私は彼とのつながりを根拠に自分が日本のヒップホップの継承者であると主張しています。「クソチョン」という表現で「チョン」の否定的意味を強調しながらも、自分は部外者ではなく当事者であると宣言することは、私が思う日本のヒップホップの閉鎖性を逆転させることであって、II裏返し型と分類できるでしょう。

IO(内集団→外集団)否定型・IO裏返し型の使用

・「Home/CHON」には「今日は俺、昨日は彼女、明日は君がチョン/今日は俺、昨日は彼女、君も明日はチョン」というブリッジ(つなぎ)があり、曲の最後には「ただ考えがちゃう(違う)と「洗脳されたチョン」?/じゃそのロジックならばお前さんの親、社長、首相、いや、〇〇さえも」という歌詞があります。これは私自身に向けられる否定的な意味の「チョン」をその使用者たちにも使うことであって、IO否定型と分類できるでしょう。