外国人や外国人のような見た目の人が流暢な日本語を話した際に、そのすごさを称賛しようと「日本語上手ですね」と言葉をかけることは決して珍しいことではないだろう。しかし、その言葉の裏には日本語ネイティブとしての言語的な優位性が潜んでいるかもしれない。韓国出身・大阪府在住のラッパーMoment Joon氏は、自身のこれまでの経験をもとに指摘する。

 ここでは、同氏の著書『日本移民日記』(岩波書店)の一部を抜粋。これまでに何度もかけられた「日本語上手ですね」という言葉に感じた“複雑な気持ち”の正体について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「日本語上手ですね」

 実は、今まで「日本語上手ですね」を何回聞いたか正確に覚えていますが、2020年の11月2日の時点で合計12万5628回でした。知っていましたか? 日本に住む「外人」なら、みんな自分が「日本語上手ですね」と何回言われたかしっかり数えているんですよ。私の彼女は34万467回、日本語母語話者なのに見た目がいわゆるハーフの大学の知り合いは昨日聞いたら5万6040回だそうです。「日本外人協会」からの命令があって、毎年報告しなきゃいけなくて……。

Moment Joon氏

 冗談です。本当に信じちゃ困ります! ただ、「日本語上手ですね」が多くの人にとってどうしても気になるフレーズであることは間違いありません。ある意味、この国で「外人」と見られている人なら、誰かに出会うたびに一度は聞かねばならない「儀式」みたいなものになっています。

 「日本語上手ですね」は、言うまでもなく善意の褒め言葉です。なので、日本に渡ってきたばかりの頃に日本語ネイティブから「日本語上手ですね」と言われたら、誰でも喜ぶと思います。少なくとも私はものすごく嬉しかったです。だって、必死で勉強した自分の日本語がうまいと認められたのに、盛り上がらないほうがおかしいでしょう。

 時間が経って、いろんな人々に会うたびに「日本語上手ですね」とまた言われましたが、喜びは前より少なくなっても、気持ちがいい言葉であることには変わりありませんでした。しかし、日本に住み始めて6、7年ぐらい経つと、「日本語上手ですね」と言われる時の自分の気持ちも、少しずつ変わりはじめました。