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「日本はどれぐらいですか?」「日本語上手ですね」…日本で生活する“外国人”が“善意の言葉”をかけられて感じる“複雑な気持ち”の正体

『日本移民日記』より #1

2022/02/15
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◯◯さんは日本はどれぐらいですか?

 私はボランティアで大阪府内のいろんな学校によく行きますが、学校の待ち合い室で待機していると、こういうパターンの会話を担当の先生と何回も繰り返します。

担当の先生 あ、キムさん、阪大(大阪大学)なんですね。日本は長いですか?

モーメント はい、今年で7年目です。

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担当の先生 へえ、そうなんですね。日本語上手ですね。

 よく一緒にボランティアに行っていたフィリピン出身の人もほぼ毎回、同じパターンの会話を経験しています。ちなみに彼は27年以上日本に住んで、見た目も日本人に見えますし、実は日本国籍も取っています。そんな彼と学校の先生との間でよくある会話。

担当の先生 ◯◯さん、今日は本当によろしくお願いします。◯◯さんは日本はどれぐらいですか?

知り合い えっと、もうそろそろ27年目ですね。

担当の先生 へ~、長いですね。めっちゃ日本語上手ですね。

 何かのパターンに気づきませんでしたか? 「どれぐらい日本に住んでいるか」を聞かれた後に、「日本語上手ですね」と言われています。「日本語上手ですね」から複雑な気持ちが生まれるポイントが、ここです。

 外国人なのに日本語がうまいのが興味深い→だから何年住んでいるかが聞きたい、の順番なら分かりますが、7年、いや、もう27年も住んでいると言ったのに、その人の日本語が上手なのがそんなに珍しいことなんだろうか、と思ってしまうのです。「日本語上手ですね」と言ってくれる人に悪意を感じるとか、気持ち悪いとか、傷つくといった話ではありません。私が複雑な気持ちになってしまうのは、12万5628回も「日本語上手ですね」と言われてきたなかで、「日本人が定義する日本語とは何か」が少しずつ見えてきたからです。

日本語のアンキャニー・バレー

 「日本人が定義する日本語」。その全体図を見るためには、もう「日本語上手ですね」と言われることもない人々の経験が必要となります。留学生たちの間には、「日本語上手と言われる段階でお前の日本語はダメ」という、冗談か警告かよく分からない言葉があります。私の大学の時の後輩や、バイトで出会った台湾人の知り合いなど、24時間日本語で仕事をして生活をしても一度も「上手」と言われない人々が私の周りにもいます。うらやましい。そこまで上手になれば、好き放題に日本語を使っても「普通」とパスされるでしょうね。いや、でも本人たちによると、「日本語がうますぎて」起こる現象もあるらしいのです。

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