気づいたらエキスパートに、という寸法
デーブさんはもっと海を好きになるには、と言ってくださっているのですが、実は、もうデーブさんはすでにその方法を実践されているんですよね。それは、誰かを驚かせたい、誰かを喜ばせたい、という気持ちを使うという方法です。誰かを驚かせたい、という気持ちが先にあると、努力を続けることが楽しくなって苦痛が消えてしまいますよね。そして、気づいたらエキスパートに、という寸法です。
デーブさんは子どもの頃に、漫画を貸してくれる日本人のワタル君をびっくりさせたくて、日本語を学び始めたんですよね。最初はワタル君の背後から「郵便局はどこですか?」と話しかけて、びっくりさせたそうですね。今も、デーブさんは「小生」という古めかしい一人称をお使いになっていますが、知らないとびっくりしますよね!
その後も、ワタル君を「こんな日本語も知っているのか」と驚かせ続けることが、日本語学習の動機になったとのことでした。1日に50~100語もノートに書いて覚えていたと。なんという熱意でしょうか。
そしてついに「デーブ・スペクターは埼玉県出身だった⁉」という疑惑がスポーツ新聞に大きく掲載されたのです。こんなアメリカ人は後にも先にも、デーブさんだけではないでしょうか。ウィリアム・アダムスも小泉八雲もびっくりです。
「海が好きな人を驚かせたい」と思えば、解決したも同然
脳は驚かされることが大好きです。驚きは脳に、快感物質としてお馴染みのドーパミンを分泌させます。デーブさんに驚かされた人はとても喜ぶし、それを見たデーブさんもまたうれしい、という明るい循環が生まれていますね。
また、デーブさんは人を驚かそうとする一方で、細やかな配慮も忘れていないんですよね。たとえばクールなギャグを表に出す時には、思いつきをそのまま口にしたり書いたりするのでなく、必ずメモして、吟味してからそうされている。デーブさんは、アメリカ人と日本人の”いいとこどり”して混ぜ合わせたような人だなあと思います。
どうしたら大して好きではない海を好きになるか。これは「海が好きな人を驚かせたい」とデーブさんが思いさえすれば、もう解決したも同然です。つまり、中野をびっくりさせようとすればいいということになります。ある日、どこかの海に潜ったら、デーブさんが「げんき?」と書いたスレート(海に潜る人が持っている小さいホワイトボードのような板)を持って待っているような気がします。
私もデーブさんの姿に学び、これから、何かを習得しようと思った時には、デーブさん方式で、誰かを驚かせることを楽しみにして勉強していこうと思います。いつもありがとうございます。
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※最新回は発売中の「週刊文春WOMAN 2022年 創刊3周年記念号」に掲載中
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text:Atsuko Komine
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2021年 秋号
2021年9月21日 発売
定価550円(税込)