「警察官が突入した時には、渡辺容疑者は1階和室のベッドと窓の間に身を隠していました。ベッドの上には犯行に使用した散弾銃が置かれ、前日に亡くなった母と鈴木さんの遺体も放置されていた。自宅で発見された散弾銃は計2丁で、登録済みのものです。
渡辺容疑者は立てこもっている間、警察と自宅の固定電話で数回連絡をとっていましたが、『被害者を救出したい』とか『被害者が全く動かない』などと話しており、精神的に不安定な様子だったようです。埼玉県警は渡辺容疑者を殺人罪で送致する見込みです」(同前)
担当医と患者の家族間で起きた、突然の悲劇――。
だが、実は事件の予兆は1年前からあったようだ。地元の医師会の相談窓口に渡辺容疑者はたびたび、介護の悩みを電話していたという。担当者が当時を振り返る。
加害者は孤独に“老々介護”「ご飯もお風呂も全部自分で」
「渡辺容疑者から去年の1月以降、約15回相談の電話がありました。『食事を食べない』『排せつをしない』というのが主な内容だったと思います。鈴木先生は92歳の母親の体調を慮り、無理な投薬などは勧めていない様子でしたが、渡辺容疑者は『最後まで診て欲しい』と何らかの手を打つことを望んでいたようです。治療方針を巡って双方で意見に食い違いが生じたことが、鈴木先生に不信感を抱くきっかけになったのかもしれません。
渡辺容疑者から最後に電話があったのは1月24日でした。私が話を整理して、『もう1回先生と話をしてみたら』と伝えると、『そうですか、聞いてみます』と素直に答えていましたよ。激高したりする様子もなく、淡々と話していました。ただ、以前から『ご飯もお風呂も全部自分でやっている』と言っていましたし、介護サービスなども利用していないと聞いていたので、介護の悩みを1人で抱え込んでいるのではないかという心配はしていました」
しかしながら鈴木さんの医師としての仕事ぶりを聞くと、そんな渡辺容疑者に親身に対応していただろう姿が浮かんでくる。
「鈴木先生はきちっと患者さんに治療の説明をしますし、在宅診療の医師では1番最初に名前があがるぐらい地元での信頼が厚い先生でした。在宅となれば、24時間、患者の対応をしなければなりません。忙しいなかでも車でおにぎりを食べながら、地元のために現場を駆け回る姿が目に焼き付いています」(同前)