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「抗がん剤や放射線は毒」「断食とサプリでがんが治る」“噂のヤバい医者”を論破した東大医学部助教が明かす《インチキ医療を見破る4つのルール》

2022/02/08
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SNSを使って囲い込む 悪徳医師の手口とは

 インチキ医療に騙される人に、共通点はあるのだろうか。

「組織を立ち上げたばかりで統計的な数字はまだ揃っていませんが、インチキ医療に引っかかるのは女性に多いような感覚はあります。『この治療を続けると5年生存率が△%』のような“数字に基づく情報”に弱く、それよりも『これは効く』『いまやっている治療はダメ』『でもこれをやれば治る』と断言されることに惹かれてしまうんです。男性の場合は高齢になると騙されやすくなる。『これはいい治療だ』と思い込むことで自分自身を縛ってしまう。年齢を重ねることで考え方に柔軟性がなくなることが背景にあるようです」

 近年はSNSを利用するインチキ医療も増えている。

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「人にアプローチしやすく囲い込みやすい点で、SNSは悪徳医師にとって便利なツールです。ツイッターなどを見ていると『この人は騙されやすそうだ』という雰囲気が見えてきます。そんな人に近づいて、DMなどでグループに引き込むのです。グループに入れてしまえばエコーチェンバー(多数の人間による同じ意見が飛び交う空間に身を置くことで、自分の意見や思想が社会全体で認められた正しいもの、と思い込んでしまう現象)が働くので洗脳しやすい」

上松医師が“詐欺クリニック”へ潜入した際の動画(「YouTubeクリニック」より)

 インチキ医療というと、報道などから「芸能人が騙されやすい」という印象を持つ人もいると思う。しかし上松医師はこう分析する。

「好転反応」という言葉にはご用心

「芸能人が引っ掛かると目立つだけで、必ずしも被害者の職業的な有意差はないと思います。芸能人や著名人は高収入だから……、と思いがちですが、これもちょっと違う。進行がんの患者は高齢者に多く、高齢者は比較的お金を持っている。低額の詐欺医療は続けても200万~300万円あたりなので、出そうと思えば出せる金額なのです」

 悪徳医師の言いつけ通りに断食をして、高額のサプリメントや水素水を飲み続けているのに、病気は治るどころか悪化していく。冒頭の乳がん患者はここで気付くことができたが、悪徳医師はこのポイントを突破する策も用意している。それは「好転反応」というワードだ。

「治療が奏功して快復に向かう途上で一時的に体調が悪化する現象を、インチキ医療では“好転反応”と呼びます。たしかに、治療が効果を示す過程で一時的に体調が悪化することはなくはないが、それを正当な医学で『好転反応』と呼ぶことはない。ところが悪徳医師の側にとっては非常に便利な言葉なので、多用するのです。

 ただ、実際に“好転”することはなく、ただ悪化していくだけ。言い換えれば医者の口から“好転反応”というワードが出たら、その治療は正当なものではないと考えて間違いありません」