信藤三雄さんがアートワークを手がけたミュージシャンが渋谷系
野宮 ひとくちに渋谷系といっても、みなさん音楽のジャンルは本当にいろいろで。ただひとつキーワードとしてあるのは“オシャレ”っていうことだと思います。ジャケットのデザインだけを見てもすごく凝っていて。あのころはアナログレコードから完全にCDに移行した時代でした。レコード盤は部屋に飾ってもインテリアになるような素敵なアートワークがたくさんありましたけど、CDになって小さくなったことで、顔のどアップみたいなデザインばかりで、オシャレなジャケットが少なくなっていたんですよね。
そこで渋谷系のジャケットを一手に引き受けていたアートディレクターの信藤三雄さんが、CDのプラスチックケースのトレイを透明にして、そこに写真を入れたりとか、いろんな発明をして。「ジャケ買い」っていう言葉もこのころに広まっていったんだと思います。
速水 渋谷系っていうのは音楽のムーブメントじゃないという部分ですね。
おぐら 野宮さんも渋谷系のアイコンとして語られていますが、信藤さんのデザインもアイコンでした。
野宮 だから、信藤さんがアートワークを手がけたミュージシャンが渋谷系と言えるのかなって思います。
速水 ジャケットのデザインを考えるときは、やっぱりアイデア会議をしたりするんですか?
野宮 しますね。ピチカート時代はそういう会議が毎回ありました。小西さんもすごくアイデア豊富な方なので、それぞれのアイデアを持ち寄って。場合によってはカメラマンやスタイリストもいたり。人数でいうと5~8人くらいかな。だけど1時間くらいほとんど誰もしゃべらないで、信藤さんにアイデアが降りてくるのをみんなが待つんです。そういうシーンとした時間にずっと耐えるのがピチカートの会議でした。(笑)
速水 小西さんもそんなに多くはしゃべらないんですか?
野宮 もちろん考えていることはあるんですけど、それをポツンと言って、信藤さんが「うーん、いいかもね」みたいな返事をして、そのあとまたシーンとなる(笑)。
速水 そういう雰囲気だと、かえって野宮さんだけは特権的になんでも言えたりは?
野宮 でも私はなにも言いませんでした。衣装の話でなにを着るかってなったら少しは言いますけど。あとは基本お任せしていました。
「スキンヘッドだけはちょっと……」
おぐら ということは、野宮さんが着る衣装についても、基本は小西さんなり信藤さんが決めるんですか?
野宮 衣装やヘアメイクに関してもほとんど小西さんと信藤さんですね。私は何も言いません。言われたものを着て、演じるという。
おぐら いままで一度も「これはいや」って言ったことないんですか?
野宮 一度だけあります。それは、シャネルスーツにスキンヘッドというアイデアが出たときに「スキンヘッドだけはちょっと……」って(笑)。
速水 それはそれで見てみたい気もしますが(笑)。
野宮 ヘアスタイルについては、アフロであろうが金髪であろうが、ウィッグだったのでなんでもやりましたけど。