退職後は第2の人生として、妻・A子さんとともに富山市で高齢者に向けたデイサービスと宿泊施設を経営する会社を設立した。
「旅館にデイサービスをくっつけたような業態で、宿泊者には昼にケアを利用してもらうという仕組みでした。常時20人くらいの方が宿泊していましたよ。市内の別のところに自宅があったのですが、私も妻も毎日のように宿泊施設に泊まり込んで、宿泊者の食事の用意やデイサービスの段取りなどをしていました」
そして2018年12月12日、事件は唐突に起きた。
当時77歳だった江口さんは、その日もA子さんとともに朝から入所者の朝食の準備をしていた。6時半ごろ、突然大柄の男が4人、土足で施設に入ってきたという。代表者の男が江口さんに対して「認知症で頭がおかしいからこれから病院に連れて行く」などと言い、別の男2人が江口さんの両脇を羽交い締めにして車に連れ込んだ。
「引きずるように連れていかれたので、階段に足が何度もあたってとても痛かった。気づけば履いていたサンダルの片方はどこかにいってしまいました。バンのような車の後部スペースに寝かされ、最初は両手足を押さえつけられたままで移動しました。途中、休憩のために寄ったサービスエリアでは自分だけ尿瓶を渡され、トイレにも行かせてもらえなかった。
サービスエリアでは、車中で代表者の男と話をすることができました。男からは民間救急をやっている会社の社員で、これから栃木の精神科病院へ行くが診察結果次第ではすぐに帰れるからまた送ってあげる、などと説明を受けました」
そして約5時間半かけて着いたのは、縁もゆかりもない栃木県宇都宮市にある報徳会宇都宮病院だった。働いていた富山市の宿泊施設からは実に400キロ以上も離れていた。
思い当たった「長男夫婦との間の金銭トラブル」
宇都宮病院に着き、連れられていったのは「診察室のようなところ」。そこへ入室してきたのが、同病院の社主で創業者の石川文之進氏(96)だった。石川氏は資料を見ながら「酒を飲んで暴れる」「認知症がある」などと心当たりのない症状を指摘してきたという。
江口さんは「認知症などなく、自らしっかり事業を営んでいる」「酒は多少飲むが暴れたりしない」と反論。すると、石川氏は「勝手にせい! 帰れ!」と怒鳴りつけ、入室して3分足らずで診療室を出て行ってしまったという。
「これは一体どういう状況なのか。よくわかりませんでしたが、とにかくひどい態度でした。ただ、帰れというので帰れるのかな、とその時は安堵もしていました」
すると次は別のB子医師が入室し、またしても石川氏と同じように「認知症だ」「酒を飲んで暴れる」などと指摘してきた。江口さんは再び反論したが、B子医師も聞き入れることはなかった。