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 自らが認知症と診断されたことは一度もなかったが、こうなった理由として、江口さんには思い当たることがあった。

「事業経営を譲っていた長男夫婦との間で金銭トラブルを抱えていたんです。連れ去られる2カ月前には長男と揉め、警察を呼んだことがありました。そこで長男が警察官に『父は認知症だ』などと話していたんですよ。

 私が経営者だった頃、長男夫婦が別の施設を作るために銀行から多額の借金をしました。会社として借金をしたので、当時の代表者は私です。結局新しい施設は作られなかったにも関わらず、その資金返済が滞っていたんです。しかも長男夫婦は『すでに建設会社に振り込んだから手元にない』と返済しようとしない。

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 なにか別のものに使ってしまったのか……。債務は、当時代表者だった私が負うことになりかねない状況でした。この件については当時、弁護士に相談しているところでした。

 私を認知症だということにすれば、私の言っていることがおかしいとなって、長男夫婦は有利になると考えたのかもしれません」

 後に江口さんらが入手した資料には、確かに《長男来院し、入院相談実施》と記されていた。

長男が宇都宮病院に、江口さんの入院を相談した際の資料。従業員に対する暴言などには心当たりがないという。海老の養殖詐欺については、妻が「恥ずかしながら、これは私のことなんです。結局お金は返ってきましたし、騙されたのは實さんではないんです」と明かした

金網に囲まれた隔離病棟に連れて行かれて…

 江口さんはB子医師に「長男夫婦と金銭トラブルがあり、自分を認知症にしたいのだ」とも訴えた。しかしB子医師はカルテに《息子たちが認知症にみせかけておとしいれようとしている等、被害妄想が著しい状態》と記載している。妻にも確認してほしいと頼んだが、B子医師は聞く耳を持つ素振りも見せなかった。

 石川氏が書いたカルテには「医療保ゴ Zelle」とも書かれていた。Zelleは、ドイツ語で保護室を意味しているという。B子医師も強制的に患者を入院させる「医療保護入院」にすべきだとカルテに書き、江口さんは入院することになった。

 医療保護入院とは、精神保健福祉法に基づき、患者の同意なしで強制的に入院させることができる制度だ。家族などの同意の上で、指定医が患者本人から聞き取りをし、「入院が必要な病状」「自分で正常な判断を下せない」などと診断すれば、医療保護入院が適用される。

 しかし江口さんはこう主張する。

「石川氏もB子医師も、あの診察で入院が必要な病状であるかどうかを判断できたとは思えません。後に入手したカルテに、私が怒って診察室を飛び出したなどと書かれていますが、そのような事実はありません。強制入院させられるなんて、納得がいきませんよ」

 カルテについては#2で詳述するが、取材班がカルテを精神科の医師に見てもらったところ、「医療保護入院が適用されるには根拠が曖昧だ」という見解だった。

石川氏の診察の後、B子医師が江口さんを診察した際のカルテ

 B子医師による“診断”の後、服を脱ぐように言われて患者衣に着替えさせられた。連れていかれたのは精神科の入院病棟だ。周囲が金網で囲まれており、異様な雰囲気だったという。そして着いたのが、隔離用の特別な保護室だった。

「これからはここで寝起きをするように言われ、部屋に置いて行かれました。窓も天井の方に小さなものがあるだけの部屋でした。外から鍵がかけられ、自由に出ることはできませんでした」

 この部屋に入ったことで、1カ月を超える“薬漬け”の過酷な入院生活が始まった。

※江口さんが宇都宮病院などへ求めている損害賠償額について、弁護側から最終的な金額の連絡があり1467万7149円に修正いたしました。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。