「2018年の12月でした。朝方にいきなり4人組の男が職場へ入ってきて、羽交い締めにされて車に押し込まれたんです。そのまま病院へ連れて行かれ、1カ月以上もの期間、強制的に入院させられて年も越しました。なぜ入院させられたかというと、認知症と診断されたからです。しかし私は認知症では絶対になかった。当時も今もです。
後に分かったのですが、入院中の検査では非認知症の結果も出ていたんです。それなのにこちらが何を言っても妄想だと片付けられました。思い出すだけでも本当に悔しいです」
こう話すのは、富山市に住む江口實さん(80)。高齢だが、過去のことも細かく覚えており、受け答えもしっかりできる。少なくとも取材の場で認知症を窺わせる様子はなかった。
「認知症ではないのに…」強制入院させられたワケ
江口さんを、認知症という“事実ではない診断結果”をもとに強制的に入院させたとされるのは栃木県にある報徳会宇都宮病院だ。2月8日、江口さんは病院と担当医師らを相手取り、1467万7149円を求める民事訴訟を宇都宮地裁で起こした。また、強制的に長期間入院させたのは監禁罪にあたるとして、宇都宮地検に刑事告訴もした。
認知症の患者は自分が認知症だと分からないケースも多い。しかし、江口さんは訴訟の提起に先立ち、裁判官立会のもと証拠保全が行われた際に、病院内に残っていたカルテなどを入手していた。カルテや診断結果には、病院側が「認知症ではない」と診断していたことを窺わせる「証拠」が残されていたのだ。
偽りの診断結果を理由に患者を強制入院させる――。果たして、そんなことがありえるのだろうか。
江口さんは中央大学商学部を卒業後、神奈川県警に奉職した。学生時代から得意だった英語を生かし米軍基地のある横須賀警察署などで勤務し、「米兵の事件の捜査をやり、アメリカにも行きました」と語る。
約13年神奈川県警で勤務した後、家庭の事情で故郷である富山へ戻り、富山県警に籍を移した。交通畑を歩むなどして定年退職まで勤め上げている。取材中、数十年前の事件捜査などを懐かしそうに笑顔で話す姿が印象的だった。