スキップは「孤独を感じやすいポジション」
だが大会のあと、次のオリンピックを目指す新体制に残ることができずチームをやめざるを得なくなった。一時はプレーする場所もない状態に陥った。そんなとき手を差し伸べてくれたのが、ロコ・ソラーレの創設者・本橋だった。カーリングができることへの感謝が、笑顔には隠されている。
そんな経験もあってか、チームメイトを思う気持ちも強い。例えば、知那美は作戦を組み立てるスキップの藤澤五月を「バディー」と呼んでいる。
「カーリングはスキップだけが唯一スイープをしない、いちばん離れたポジション。(チームの中で)1対3の構図になりやすく、孤独を感じやすいポジションです。ゲームの中でよりそばにいて、より近くでたくさん話すのは私です。そういう意味でバディーと言っています」
その藤澤は、戦術の組み立て方、ここいちばんでの正確なショットから、世界有数のスキップという評価が定着している。「最後の一投」を担うだけに、まさに勝負の分かれ目を背負うポジションでもある。失敗すれば涙を流す姿は責任感の表れでもある。同時に、攻撃的な戦術の組み立てを好むように、気の強さも持ち合わせる。
「どんな氷でも、どんとこい、という感じです」
大舞台に向けての言葉も力強い。
吉田夕梨花と鈴木も、知那美や藤澤に勝るとも劣らない存在感を示す。リードの夕梨花は姉の知那美と対照的に落ち着いたタイプで、藤澤の指示する位置へ淡々とストーンを決めていく。まさに職人タイプと言える。
鈴木は146センチとひときわ小柄ながら、ブラシで氷を掃くことでストーンの進む距離を延ばしたりする「スイープ」では誰にも負けないパワーを持つ。ショットでも相手のストーンを2つ弾き出すダブルテイクアウトなど、チームの勝利に貢献する。
天真爛漫と言われることも多く、取材時はいつもにこやかな笑顔。1月のカナダ合宿中には、3年ほど前に始めたオカリナを持参。
「(カナダの)最高の絶景で吹くことができました」
以前からの「景色がきれいなところで吹きたい」という夢がかない、心底うれしそうに語る。得意な曲は「ちょうちょう」だと言う。
そんな個性豊かな4人に、2020年に石崎琴美が加わった。最初にオリンピックに出場したのは2002年のソルトレイクシティ五輪。最後に出場したのは2010年のバンクーバー五輪。カーリング界の大ベテランはチームを客観的に見てアドバイスをおくるなど重要な役割を担っている。
個性あふれる選手たちが目標とするのは世界一。長年にわたり培ってきたチーム力、氷上にあふれる笑顔を武器に、2度目の大舞台に立つ。