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母親もうれしくて号泣…ロッテ・佐々木朗希 人々の心を動かす“言葉力”

文春野球コラム ウィンターリーグ2022

2022/02/14

 プロ野球の長いシーズンの中にあって、心に残る言葉は沢山、生まれる。それはヒーローインタビューであったり、なにげない場面からであったりする。昨年、プロ野球界でもっとも有名になった言葉は日本一となった東京ヤクルトスワローズ高津臣吾監督の「絶対、大丈夫」であろう。2021年のマリーンズを振り返ると、どうか。忘れられない言葉の一つは5月27日の阪神タイガース戦(甲子園)でプロ初勝利を挙げた佐々木朗希投手の言葉。ヒーローインタビューでウィニングボールを誰に渡すかと問われ「両親に渡したいと思います」と即答したものだ。

聖地甲子園で感じたウィニングボールの重み

「あれは別に事前に考えていたわけではなくて、インタビュアーに聞かれてとっさに出た言葉です。でも今思うと、ああいう風に答えられてよかったかなと思っています。ボクは両親に育ててもらったので」

 石垣島で充実の春季キャンプを過ごしている佐々木朗は昨年の出来事を静かに振り返った。あの日、大船渡市の自宅でテレビ観戦をしていた母・陽子さんはヒーローインタビューを聞いて号泣したという。

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「ヒーローインタビューでウィニングボールをどうするのかと聞かれて『両親にプレゼントします』と言ってくれた事がうれしくてうれしくて号泣しました。私だけではなくて両親にと言ってくれたのがうれしかったです。本当に嬉しい一日となりました」と陽子さんは話をしてくれた。

 実家で見守る母と2011年の東日本大震災で亡くした父の2人への感謝。多くの人の心を動かした言葉であったことは間違いない。それは事前に用意された作られたものではなく自然に胸の奥から生まれた。日ごろから感謝の気持ちを持ち続けているからこそである。佐々木朗の父に野球経験はなくバスケットボール経験者だったが、よくキャッチボールをしてくれた思い出が残る。子煩悩で優しかった。そのぬくもりは今も忘れないし、その存在があったからこその今があるのだと佐々木朗は思う。だから聖地甲子園でウィニングボールの重みを右手に感じながら父と母に感謝し、空を見上げた。そして今、そのボールは実家の仏壇に飾られている。

ウィニングボールを手に持つ佐々木朗希 ©千葉ロッテマリーンズ

 プロ2度目の先発登板での初勝利だった。試合後の甲子園は明らかにいつもと雰囲気が違っていた。祝福ムードに包まれていた。タイガースファンからも自然と拍手が起こった。

「頑張れや」「おめでとう!」

 タイガースのユニホームを着たファンが背番号「17」に祝福の言葉を送っていた。その中で佐々木朗はしみじみとプロ初勝利の想いを感じ取っていた。

「嬉しかったですね」と佐々木朗。緊張感を、どこか楽しんでいるように映った。出番はカード3戦目。1戦目の練習中にブルペン入りして変化球を交えて32球。練習後は食堂でメニューにあった甲子園カレーをはじめて食べた。2戦目も練習中に甲子園の雰囲気を感じた。六甲山から吹き降ろされる風を感じ、ビジョンに映し出されるタイガースの様々なPR映像に見入っていた。練習後は2日連続で甲子園カレーを食べた。

「緊張はしています。でも、なるようにしかならない。そういう気持ちでいます」

 先発の日の朝は午前7時ぐらいに目を覚ましたが、もう一度、眠りに入って11時にベッドから出た。「ボクの中で睡眠はものすごく大事。最低8時間は寝ないとダメ」と佐々木朗。プロ初先発した5月16日の埼玉西武戦(ZOZOマリンスタジアム)はデーゲームということもあったが午前5時に目が覚めてしまい、そのまま起きてしまったがこの日はしっかりと睡眠時間を確保した。ちなみに先発の日の食事はバナナなどの軽食に抑えるため3日連続の甲子園カレーとはならなかった。

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