「刺された! おい、刺されたぞ!」
殺られる――。
そのとき、少し離れた場所から悲鳴に近い叫び声が聞こえた。
「刺された! おい、刺されたぞ!」
全員の視線が叫び声の方向に注がれる。
その一瞬の隙をつき、私は自分を押さえつけていた男の顔に体をひねって右の拳を叩き込んだ。そして腕を振り払うと、ナイフを抜いて周囲を牽制 する。そのまま敷地を囲む壁に向かって全力で走り、壁を乗り越えてなんとかその場から脱出したのだ。
ウゥーウゥー、ウウゥゥゥー……。
乱闘現場を離れるのとほぼ同時に、遠くのほうからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。やがて数十台のパトカーのけたたましいサイレンが浦安の街のあちこちから湧き上がり、まるで荒波のようにこちらに押し寄せてくる。
私は体中を殴打された痛みに顔を歪めながら、仲間たちを探した。
「おい、佐々木! 大丈夫か!」
声の主は現場近くで様子をうかがっていたナリとヤンだ。彼らは市川スペクターの襲撃をうまく逃れることができたらしく、斎○も、女たちも無事だった。
しかし、Iの姿が見当たらない。
「Iはどうした? あいつはどこにいる?」
そう尋ねてもIの所在や安否を知る者はいなかった。Iを探さなければならないが、警察の数が尋常でないので私たちはいったん当代島に帰ることにした。
私たち7人がアパートの前まで戻って来たときだった。
薄明かりに照らされた路地に一人の少年が立ち尽くしている。
憔悴し切った表情を浮かべたその少年はIだった。
「I!」
声をかけると、Iは虚ろな目を向けた。そして、これまで聞いたことのないような暗く沈んだ声で、あたかも独白するかのようにボソッと言った。
「俺、刺しちゃったよ……」