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「あいつらの喧嘩、気にならないか。ちょっと見に行ってみようぜ」

 私は当時、東西線浦安駅から歩いて10分ほどの場所にある当代島にアパートを借りていた。当代島は、産業廃棄物の中間処理場や食品加工工場などが立ち並ぶ殺風景な地域だ。私を含めてその場にいた8人全員が未成年だったが、当代島のアパートに戻ってきた私たちは万引きしてきた酒や食べ物で酒盛りをしていた。

 しかし、毎日喧嘩に明け暮れていた私たちは血が騒いで仕方がない。

 いくら酒を飲んでもウエスタンレーンでの出来事が頭から離れないのだ。

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「あいつらの喧嘩、気にならないか。ちょっと見に行ってみようぜ」

 そう言って口火を切ったのはナリだった。

 私たち8人は単車にまたがり、鬼羅連合の喧嘩の結末を見届けるために再びウエスタンレーンへと向かった。ブォーン! ブォンブォンブォン、ブォォォーン……! 消音器(サイレンサー) を取り外した直管ならではの凄まじい爆音が鳴り響く。

写真はイメージです ©iStock.com

 ほどなくして東西線浦安駅前を通過し、ボーリング場の建物が見えてきた。

 ウエスタンレーンに到着した瞬間だ。

 突如、鬼羅連合の抗争相手である市川スペクターのメンバー200人以上が駐車場の奥から現れ、「ぶち殺せ!」と口々にわめきながら襲いかかってきたのである。

「おい、やめろ! 何を勘違いしてんだ!」

 数時間前と同じような光景が繰り返されたが、市川スペクターは止まらない。私は武装した男たちに鉄パイプや木刀で全身を滅多打ちにされると、地面に転がされて容赦なく蹴りを入れられた。

 防戦一方の私は頭を押さえて体を丸めた。急所を守るためだ。

 わずか数分程度の出来事だったが、私には途方もなく長い時間に感じられた。防戦一方ではむしろ命の危険に直結する。暴れながらもどうにか立ち上がり、気力で拳をぶつけていく。夢中だった。武器は何度か手にしたはずだが、気がつくと幾十(いくそ) にも取り囲まれて身動きの取れない状況になっていた。私の目の前には刃物の切っ先があった。