文春オンライン

「ストップをかけたのは警視庁のトップです」その日、捜査員も検事もみんないなくなった…伊藤詩織が“ブラックボックス”の片鱗に触れた日

『Black Box』より #1

2022/03/08

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, メディア

note

衝撃の電話

 この電話から4日後、逮捕予定の当日に、A氏から連絡が来た。もちろん逮捕の連絡だろうと思い、電話に出ると、A氏はとても暗い声で私の名前を呼んだ。

「伊藤さん、実は、逮捕できませんでした。逮捕の準備はできておりました。私も行く気でした、しかし、その寸前で待ったがかかりました。私の力不足で、本当にごめんなさい。また私はこの担当から外されることになりました。後任が決まるまでは私の上司の〇〇に連絡して下さい」

 驚きと落胆と、そしてどこかに「やはり」という気持ちがあった。質問が次から次へと沸き上がった。

ADVERTISEMENT

 なぜ今さら? 何かがおかしい。

「検察が逮捕状の請求を認め、裁判所が許可したんですよね? 一度決めた事を何故そんな簡単に覆せるのですか?」

 すると、驚くべき答えが返ってきた。

「ストップを掛けたのは警視庁のトップです」

 そんなはずが無い。なぜ、事件の司令塔である検察の決めた動きを、捜査機関の警察が止めることができるのだろうか?

「そんなことってあるんですか? 警察が止めるなんて?」

 するとA氏は、

「稀にあるケースですね。本当に稀です」

 とにかく質問をくり返す私に対し、

「この件に関しては新しい担当者がまた説明するので。それから私の電話番号は変わるかもしれませんが、帰国された際は、きちんとお会いしてお話ししたいと思っています」

 携帯電話の番号が変わる?

 A氏はどうなるのだろうか?

「Aさんは大丈夫なんですか?」

「クビになるような事はしていないので、大丈夫だと思います」