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「ストップをかけたのは警視庁のトップです」その日、捜査員も検事もみんないなくなった…伊藤詩織が“ブラックボックス”の片鱗に触れた日

『Black Box』より #1

2022/03/08

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, メディア

note

担当していた検事も……

 何か他のルートで調べる方法はないのか。

「どこに聞けばいいのだろう」そんな考えがぐるぐる頭を回った。

 私はすぐに、泊まっていたドイツの友人宅に戻り、キッチンから電話をかけた。当時この事件を担当していたM検事に、話を聞きたかったのだ。

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 M検事あてに電話をかけると、「M検事はこの件から外れた」と、電話に出た人は言った。この人もだ。逮捕のストップがかかった当日に、この件を担当していたA氏も検事も、誰もいなくなった。

 西日の強く差すキッチンで、野菜や果物がたくさん入ったバスケットを眺めながら、今すぐにでも真相を追求しに東京に戻るべきだと思いながら、一方で日本にいなくて良かった、と思った。

 よく晴れたとても爽やかな日だった。いつもの曇りきったベルリンの空ではなく、天気だけは良かった。少なくとも、今日この街で電話を受けたことは救いになった。

 帰国すれば、逮捕されなかった山口氏は、そのままTBS本社で働いているのだ。私の職場の目と鼻の先にあるビルであった。日本に帰ることそのものが嫌になった。

Black Box (文春文庫 い 108-1)

伊藤 詩織

文藝春秋

2022年3月8日 発売

 

「ストップをかけたのは警視庁のトップです」その日、捜査員も検事もみんないなくなった…伊藤詩織が“ブラックボックス”の片鱗に触れた日

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