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毎日を自分らしく、ポジティブに生きる人生の達人(後編)

毎日を自分らしく、ポジティブに生きる人生の達人(後編)

『もうすぐ100歳、前向き。 豊かに暮らす生活術』 (吉沢久子 著)

2016/07/21
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戦前の雰囲気を今ヒュッと感じることがある

――そのときは情報源がなかったけれども、今はネット、新聞、テレビ……すぐに情報が入ってきますね。今は新聞を各紙読んでいらっしゃるんですか?

吉沢 はい、ただ本当に見るだけみたいなもんですけれども。ただ、その中に読みたい記事があればそこだけしっかり読みます。全国紙3紙(朝日・毎日・読売)と新潟日報ね。

――最近のニュースをご覧になっていて、今の日本に対して思われることはありますか?

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キッチンに続く書斎の机では、原稿執筆などの長い時間を過ごす

吉沢 それはね、戦前にみんなが「戦争になるんじゃないかしら」という思いを持った雰囲気を、今ヒュッと感じることがあるんです。

――安倍さんの演説を聞くと、戦前に聞いたようなことを言っていますか?

吉沢 はい。なんか雰囲気がそうなんですね。やだなっていうふうに感じる。まぁ戦前は軍人が威張って、「分からない人民どもはだまってろ!」と言うから、普通の人は声を出せなかった。そのことに苛立ったし悲しかったですね。安倍さんは軍人みたいにはしゃべらないけど、言ってることはいやですよ。だから私は、どれだけ辛い思いをしたかということを戦争体験者として伝えていく人間でなきゃいけないなと思っているんです。本当にひょっとした拍子に起こるんですよ、戦争なんて。それがもう、わ~っと雪ダルマみたいに大きくなっていく。でもやっぱり、若い人は戦争を体験していないから、分からないのよね。

――ヴァーチャルな世界がすごく広がっていて、実体験を伴っていないような感じがあるから、子供が殺人を犯す事件が起きると思うのですが。

吉沢 うんと若い人なんか、殺人を「面白そうだ」なんて思っちゃったりしてね。

――4月に熊本地震が起きてしまいましたが、最後に、読者に向けて何かメッセージがありましたらお聞かせください。

吉沢 今度の大地震を考えると、やっぱり災害っていつ自分の身に起こるか分からないですね。だから、常日頃から備えについて考えながら暮らさなきゃいけないなぁと思います。これは小さなことですけど、北海道で大地震にあった女性から聞いた話ですが、お皿とお皿の間に薄い発泡スチロールをしいておいたら、しいたところだけは全然壊れなかったのだそうです。それを聞いてから、私も一生懸命真似してね。体験者に訊いたことってすごい参考になる。だからうちは3.11のときに1枚もお皿が割れなかったの。

――本も落ちなかったのですか?

吉沢 本は本棚に隙間を開けずに、ぎっしり詰めると大丈夫なんですよ。本棚は作り付けというか、後から大工さんに頼んで壁に付けてもらいました。でも、キッチンにあった瀬戸物は本当に助かりました。発泡スチロールはお店でお魚やなんかを包んでいただいたのを洗って取っておいて、テレビなんか見ながら、お皿に合わせた形に切っておくんです。それですぐに補充できるようにしておく。教えてもらって、すぐやっておいて良かった。

――やっぱり、吉沢さんは実行力がおありですね。

吉沢 どうしようかなんてことはあまり考えないで、「良いか・悪いか」の判断が割と早いんです。だから、緩衝材をしくなんてことは簡単だし、家事の一環としてちょっとヒマがあったときにやっておけばいい。家事について色々書いていた頃には、そういった日常生活を送るうえで工夫していたことを記事に書いて紹介していたのが、随分みなさんの参考になったんですね。

――家事って奥深いですね。「家事」っていうと一言で済んじゃうけど、終わりがない。

吉沢 それで、これでいいっていうことがない。家族によって銘々やり方が違うでしょ。だからすごく難しいと思う。「脳の学校」の医学博士・加藤俊徳先生によると、家事で頭をいろいろ回転させるのは一番脳にいいそうです。頭を使えば使うほどいいというので、じゃあ一生懸命使おうと。

――吉沢さんが明晰でいらっしゃる秘訣は、そこにありそうですね。

吉沢 自分で考えることが、一番の健康のもとなんですね。まだ自分のことは自分でできる元気がありますから。だからそれはやっぱり慣れで、ずっとやってきたからできるわけです。途中で降りちゃうとダメですね。毎日の繰り返しが大事なのです。

――生活がマンネリ化したり、つまらなくなってしまう事はないですか?

吉沢 ないですね。自分でなんでも面白がっちゃう(笑)。だから、本当に考えてみたら生活って面白いんですよ、変化があって同じことはないですから。

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吉沢久子(よしざわ・ひさこ)
1918年東京都生まれ。生活評論家、エッセイスト。文化学院卒。15歳から仕事を始めて、事務員・速記者・秘書などを経て、文芸評論家・古谷綱武氏と結婚。家庭生活を支えながら、日々の生活で培われる知恵や技を工夫・研究し、幅広く現代の生活に提案し続ける。著書に、『吉沢久子、27歳の空襲日記』『人間、最後はひとり。』『自分のままで暮らす』などエッセイ多数。

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