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 同じ日、日本の外務省はウクライナ全土の危険情報を最高の「レベル4」に引き上げ、渡航の中止のみならず在留日本人の即時退避も呼びかけている。ウクライナ危機に対するリスクの見積もりに、日中でかなり大きな温度差があったことは明らかだろう。

2月11日、ウクライナ全土が真っ赤に染まった外務省の「危険情報」。今回は中国よりも日本のほうが早期に適切な判断を取れたのだった。

 中国駐ウクライナ大使館のWeChatの公式アカウントを観察すると、その後も2月12日・17日・18日と、ワクチン接種のお知らせをのんびりとアナウンス。彼らが同胞の退避に言及する情報を出したのは、なんとロシアがウクライナに攻め込んだ翌日の2月25日だった。

 やがて戦争の混乱のなかで、現地の中国人の間では中国大使がすでに首都キーウ(キエフ)を脱出して逃げたというデマが広がったらしく、27日には大使の範先栄の名で、わざわざ噂を打ち消す内容の声明を発表。かなり情けない体たらくをさらしている。

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ロシアは作戦計画を教えてくれなかった

 開戦後の中国の反応も微妙である。中国は外交部の記者会見などで、ロシアの行動を「侵攻」と呼ぶことを避け、表立った批判を控える反面、25日には王毅外交部長が「すべての国の主権と領土保全を尊重、保障し、国連憲章の趣旨と原則を確実に遵守する」とも主張。華春瑩や劉暁明など外交部の高官たちもツイッターで同様の穏健な意見を繰り返した。なにより、25日にプーチンと電話会談した習近平が、ロシアの立場に理解を示しつつも穏健な事態収拾を求める発言をおこなっている。

 いっぽうで中国駐ウクライナ大使館となると、前出の範先栄大使声明で「目下、ウクライナ人民は非常に困難でつらい状況にある」「中国の対ウクライナ政策はひたすら友好的である。私たちはウクライナの独立・主権と領土の保全を尊重し、ウクライナが平和と安定を保つことを望み、政治的な話し合いを通じて現在の危機を解決することを望んでいる」などと表明。ずいぶんロシアには不都合そうな、ウクライナに配慮したメッセージを出している。

いっぽう、お騒がせ発言で知られる駐大阪総領事の薛剣は2月24日、ウクライナのロシアへの抵抗を揶揄するようなツイートを発表。これは翌日の習近平や王毅らとは異なる主張であり、フライングで北京の意向とは異なる言動をおこなったようだ。

 中国が見せている一連のチグハグな動きや自国民保護の初動の遅さを見る限り、彼らがウクライナ戦争の勃発を正確に予測できていたとは思えない。習近平は2月4日、北京冬季五輪の開会式に合わせて北京でプーチンと直接会談しているのだが、このときもロシア側は中国に対してウクライナ侵攻計画の規模や詳細についてほぼ明かさなかったのだろう。

 日本の一般人のイメージでは、同じように反米的な専制国家である中国とロシアが、なんでもグルになって動いているようにも見えるのだが、実態はかなり異なる。どうやら両国の「友好関係」は、すくなくともロシア側の立場としては、必ずしも絶対的な信頼関係とは考えられていなかったようなのだ。