2月24日、ロシアがウクライナに対する全面戦争を開始した。核兵器を保有する強大な専制国家が、広義の自国の「ナワバリ」に潜在的に含まれ得るとみなした別の主権国家に対して、軍事力を使って現状変更を求めているのが、ウクライナ戦争の目下の構図だ。

 仮にロシアが戦略的に成功した場合、中国が台湾に対して同じような問題解決をはかっていく可能性も、一部でさかんに論じられるようになった。この見解への是非はさておき、現在、戦争の当事者両国以外で最も注目されている「外野」のプレイヤーのひとつが中国であることは間違いない。

 ただ、実は開戦前後の様子を見る限り、どうやら西側世界に生きる私たちがイメージするほどには、中国とロシアの足並みは揃っていなかったようである。

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日本の外務省よりも鈍かった中国外交部

 まず、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の中国特派員・魏玲霊(Lingling Wei)の2月25日付け記事によると、北京冬季五輪開会式の際にプーチンが訪中して習近平と会談した時点で、北京側の政策顧問たちは「中ロの連携強化により、中国がいかに米国に対して優位に立てるかとの考えにとらわれ」「ロシアがウクライナ侵攻に踏み切る可能性については軽視、あるいは全く無視していた」という。

 また同じく2月25日付けの『ニューヨーク・タイムズ』によると、今回の開戦前、アメリカは3ヶ月間にわたって中国の外交関係者と接触を持ち、ウクライナでのロシアの軍備増強の情報を示して中国側に戦争回避への協力を要請していたという。だが、対して中国側は戦争の可能性を否定し、アメリカからの接触をロシア側にリーク。「米国は中ロ間の離反を狙っている」「中国はロシアの計画の邪魔をしない」といったメッセージすらロシアに伝えていたらしい。

2019年6月14日、キルギスで行われた上海協力機構の首脳会議に出席した習近平とプーチン。1953年生まれの習近平は中ソ対立が激しい時期に育ったが、年配世代の中国共産党員にとって、ソ連(ロシア)はかつての敵とはいえ独特の畏怖と尊敬を覚える対象であるともいう。 ©AFLO

 中国外交部の動きを観察する限り、これらの記事の信憑性は高いように思える。たとえば、軍事的危機の高まりを受けたウクライナ領内からの中国人の退避は、かなり遅かったのである。

 中国は一帯一路政策のもと、経済や軍事分野などさまざまな面でウクライナとも関係が深いため、同国内には約6000人とされる中国人が滞在している(ちなみに日本人は昨年末時点で251人だ)。しかし、驚くべきことに、今回の中国外交部の自国民への注意喚起の動きは、なんと日本の外務省よりもさらに鈍かった。

「中国大使は逃亡した」デマが流れる

 たとえば2月11日、中国駐ウクライナ大使館が出したアナウンスは「在ウクライナ中国公民にコロナ予防の強化と現地情勢に細心の注意を払うことをお願いするご注意」だ。表題からもわかるように、内容はコロナ予防に重点が置かれており、「小さい子供の予防対策も油断しないでください」など、のほほんとした雰囲気すらある。