文春オンライン

〈平成ノブシコブシ解散危機〉あの時、ナイフを持っていなくて本当に良かった…徳井健太が振り返る相方への“殺意”が爆発しかけた“楽屋での出来事”

『敗北からの芸人論』より #1

2022/03/10
note

「365日のうち、360日はつまらない」

『ピカルの定理』が終わった2013年当時、キングオブコントという目標はあったものの、いよいよテレビでのコンビの仕事は少なくなった。そして、元々器用だった吉村は、あれよあれよという間に売れていった。犠牲心も身に付けていった。

 お陰でストレスのかかる仕事も増えていったのだと思う。オイシイところはアイドルやモデル、役者に取られ、自分は散らかった番組の後始末。そこを評価してくれる関係者は沢山いたろうが、自身の心に当然負担はかかってくる。

 その頃吉村がラジオでポロっと言った。

ADVERTISEMENT

「365日あったら、360日はつまらないよ」

 僕はある程度予想していたから笑ったが、他の共演者は引いていた。あんなに楽しそうにしていて、お金も持っていて女性にもある程度モテて良いところに住んで良い車にも乗っているのに? ほとんど毎日がつまらないだなんて。そんな、バカな。

 コンビ結成20年以上が経った今、吉村がたまに口にする。

「全芸人の中で、徳井の生き方が一番良いんじゃねぇかな。普通よりは金を稼いで趣味の仕事もして、たまにストレスのかかる本格派バラエティにも呼ばれて、休みもちょこちょこある」

 なるほど、確かにそうかもしれない。

 実際、最近は毎日が楽しい。目標も持てるようになったし、後悔や反省をしながらそれでも前に進めるようになったのも大きい。吉本から多額の借金はしているが、生活に困らないくらいのギャラも頂いている。

 だが吉村よ、君が僕の立場だったらとっくに死んでいたと思うよ。

徳井健太氏映画出演など活躍の幅を広げる(映画『マイ・ダディ』公式Instagramより)

ベタベタ仲良しアピールなんていらない

 今の僕の立ち位置は確かにある意味でいいかもしれないけれど、20代の頃の僕の立場にあなたがいたら、きっと死んでいた。それくらいプライドは切り裂かれたし、未来も希望も一筋の光も見えなかった。

 けれど、今の僕があるのは確実に吉村のお陰だ。兄弟喧嘩は忘れない。だが、時が経てば恨みも薄まる。そしていつか笑って話せるようになる。

 自分の母親や父親が死ぬまで連絡も取らない、顔も合わさない。そんな兄弟が、その葬式で何十年ぶりかに会って笑いながら酒を飲む。それでいい。

 ベタベタ仲良しアピールなんていらない、本音で生きていたらそれで充分だ。他人にとやかく言われたくはない。

 兄弟ってのは、二人にしか分からないもので、二人にも分からないものが沢山あって、それでいいんだ。

 吉村、ありがとう。

【続きを読む】「いや、そんなんできるかぁ!」客ウケに悩む徳井健太に先輩芸人から伝えられた奇想天外な“アドバイス”〈テレビバラエティを支える“天才”たち〉

敗北からの芸人論

徳井健太

新潮社

2022年2月28日 発売

〈平成ノブシコブシ解散危機〉あの時、ナイフを持っていなくて本当に良かった…徳井健太が振り返る相方への“殺意”が爆発しかけた“楽屋での出来事”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事