“孤高のカルト芸人”――。
芸人・永野を、そう称する人は少なくない。2015年、「ゴッホより、普通に、ラッセンが好き」のネタでブレイク。だが、なぜ彼が“孤高”かつ“カルト”になったかは、意外なほど語られていない。
昨秋、永野は『僕はロックなんか聴いてきた ~ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!~』を上梓した。自身のYouTubeチャンネルで繰り広げるロック原体験が話題を呼び、書籍化へとつながった格好だ。
「若いころに通った音楽や映画って、孫悟空の輪っかみたいなもので取れないんです」
そう語る永野の言葉は、こじらせてきた者たちを阿鼻“共感”させる説得力に満ちている。
なぜ永野は“孤高のカルト芸人”と呼ばれるにいたったのか? 話を聞いた。(前後編の前編/後編を読む)
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――『僕はロックなんか聴いてきた ~ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!~』では、永野さんの赤裸々な青春時代、音楽的背景が吐露されてます。
永野 そもそも自分のバックボーンを書くことに対して、「違うんじゃないの?」って当初は乗り気ではなかったんですよ。お笑い芸人のくせに、「カート・コバーンの気持ちとしては~」みたいなことを真面目に話していたら変じゃないですか? でも、自分のYouTubeチャンネル『永野CHANNEL』で、リンプ・ビズキットやナイン・インチ・ネイルズについて話すと、なぜかバズって。それで味をしめて、恥も外聞もなく自分のルーツである90年代ロックを語り始めたら書籍化のオファーが届いたんですよね。
YouTubeへの抵抗があった
――想定外の出来事だったと。
永野 僕は、芸人がYouTubeをやるのって流行りだし、なんか嫌だなって思ってたんですよ。初期の動画を見ると、顔が明らかに嫌がっている。YouTubeって、テレビでダメだった奴のやるもんじゃんってマジで思ってたんですよね。テレビに出たくて頑張ってきたのに、なんでメントスコーラとかやんなきゃいけねぇんだよって(笑)。それに、自分の甘酸っぱい部分をオープンにすることで、世間が抱いている……かもしれない永野のイメージが崩れるんじゃないかっていう、自意識過剰な恐怖みたいなものもあって。でも、実際には全然そんなことはなくて、この本をきっかけに自分の中に閉じ込めていたものを開示してもいいんだなって気が付くことができたのは新鮮でした。