“孤高のカルト芸人”――。

 芸人・永野を、そう称する人は少なくない。2015年、「ゴッホより、普通に、ラッセンが好き」のネタでブレイク。だが、なぜ彼が“孤高”かつ“カルト”になったかは、意外なほど語られていない。

 昨秋、永野は『僕はロックなんか聴いてきた ~ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!~』を上梓した。書籍化のきっかけは、自身のYouTubeチャンネルで赤裸々に語られるロック原体験だ。披瀝するエピソードの数々は、“孤高”で“カルト”になる理由が潜み、こじらせてきた者たちを阿鼻“共感”させる説得力に満ちている。

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「今だからこそ言えますけど、売れたはいいものの、これを続けるのは無理だって思っていました」

 ブレイク後も、自身を縛る“孫悟空の輪っか”に悩んだという永野。予定調和は好きじゃない。その真意を聞いた。(前後編の後編/前編を読む

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――先ほど永野さんは、「自分に影響を及ぼしたカルチャーって、孫悟空の輪っかみたいなもので取れない」と話されてました。それはラッセンでブレイクした後もですか?

永野 たとえば、雑誌編集者がインタビューをして、その後編集部で仕事をしているとするじゃないですか。そういう光景って、普通に働いていたら、まず自分を客観的に観る機会はない。でも、芸人ってひな壇での立ち振舞いとか自分のトークとかを、テレビを通じて客観的に観る事が可能なんですよ。そうすると、本来自分がやりたいことじゃないことをやっている自分を見ることになる。そこにすごい自分自身で違和感があって。

 

 若い頃だったらいいんでしょうけど、40過ぎた僕みたいなおじさんが、年下のタレントさんや芸人と友だちのように接しているのを見ちゃうと、「うわー、いつもと全然違うじゃん」って自分に対して思ってしまう。全身整形をしてテレビに出ているわけじゃないですか。だから、落とし穴にはまるドッキリとかも、「ゴッホより落とし穴が好き」って言えばいいのに、ただただ「ふざけんなよ!」とかキレる笑いへ走ってましたね(苦笑)。

 多分、自分の中でテレビ仕様になりきることに抵抗があったんだと思います。ただキレてる方が、「こいつやべぇ奴だ」って自分の中で楽しめるというか。たくさんテレビに呼ばれるようになりましたけど、あえて誰からも求められてないことをしていたところはありましたね。