自身のYouTubeチャンネルやエッセイを中心に行う、芸人やバラエティ番組への的確な考察が各所で話題を呼んでいる平成ノブシコブシの徳井健太氏。同氏は、自身も長年活躍し続けたテレビバラエティが「オワコン」と言われ続けている現状について、どのような考えを持っているのか。
ここでは、徳井氏が21組の芸人の生き様に迫った著書『敗北からの芸人論』(新潮社)の一部を抜粋。コロナ禍によって変化したバラエティ番組の現場、そして、自身が先輩から受けてきたさまざまな影響について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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ピンチはチャンスで、チャンスはピンチ
よく聞く言葉だが、芸歴20年の僕は、この言葉をいつも肝に銘じて生活している。
ピンチにやっと放ったヒットやツーベースは信じられないくらい褒められるのに、チャンス時に放ったヒットやツーベースはそれほど褒められず、当たり前のように時間が過ぎていく。ピンチで打ったホームランは人生を変えることもあるが、チャンスの時のホームランはほとんど人々の記憶に残らない。
コロナで社会は変わった。ピンチの人も沢山いるだろう。
芸能界もコロナで変わった。
リモート出演や別室からの中継が増え、今まで当たり前のようにあった大人数がひしめく「ひな壇」という文化は脆くも消えた。それは、断捨離にも似ている。
ときめくものと、ときめかないもの。ときめかないものは全部捨てられた。
「僕、この番組に必要なのかな?」
そんな仕事は一つ残らず消えた。
代わりに来るのは、意味のあるものがほとんどで、今までのように拍手をして笑顔を作っていればいいポジションは消え失せた。
「よくいるけど、あの人は何をしてる人なんだろう?」
そんなスタッフさんも窮地に立たされたはずだ。
それはきっと芸能界以外も同じだろう。
窓際族、なんて言葉はなくなっただろうし、コロナのせいで路頭に迷う人も少なくないと聞く。生活が苦しくて芸人をやめる決断をした仲間も結構いて、僕なりにその深刻さは感じている。
だがここで、コロナのせいにして人生を投げ出してはもったいない。このピンチのなかにも、きっとチャンスも転がっている。僕はそう信じている。
『テレビ千鳥』に感じたテレビ愛
例えば、無駄な飲み会や付き合いも全て吹き飛んだ。無下にしてはいけないと思い込んでいた、あの頭を抱える相手からの連絡なんぞ、実は無視していいんだと気が付いた。必要なものだけが残った。
2020年の6月、『テレビ千鳥』の放送で番組のDVD発売を記念した回があった。今までの面白かった放送を振り返りながら、みんなでわーわーと楽しむ、よくある宣伝企画だ。