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「いや、そんなんできるかぁ!」客ウケに悩む徳井健太に先輩芸人から伝えられた奇想天外な“アドバイス”〈テレビバラエティを支える“天才”たち〉

「いや、そんなんできるかぁ!」客ウケに悩む徳井健太に先輩芸人から伝えられた奇想天外な“アドバイス”〈テレビバラエティを支える“天才”たち〉

『敗北からの芸人論』より #2

2022/03/10
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 だがコロナ禍で無観客になり、朴訥な一言だけで何とかなるようになってきた。

アイドル番組で求められるもの

 こんなことになるなんて、誰が想像しただろう。

 若手の頃、先輩である2丁拳銃さんのトークライブに呼んでもらえた時があった。当時、ヨシモト∞ホールではそこそこ笑いを取っているつもりだった僕は、その現場でも同じように自分が面白いと思うトークをした。しかし、全然ウケなかった。

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 だが、2丁拳銃の小堀さんや修士さんを絡めたトークをした時はウケた。その時に学んだ。その場の主役を絡めた話じゃないと、最初は誰も自分なんかに振り向いてくれないんだ、と。

 だからアイドルグループの番組MCをする際、その場に観客がいた場合、とにかくそのグループや現場に寄せたトークをするようにした。

 もちろん苦手だったが、そこで尖ってスベっても仕方がない。当然のことだけど、仕事としてやるべきことは、番組を盛り上げることだからだ。お客さんの顔色をうかがいながら、無難なトークで目立たないようにやり過ごしていた。

 時代は変わり、アイドル番組もバラエティ同様、無観客になった。もうその場の空気を、お客さんの顔色をうかがう必要がなくなった。自分の言いたいことを言えるようになった。

 それはアイドルたちも同じだ。鎧を脱ぎ、素顔になった彼女たちと番組をやっていると、芸人からの無茶ぶりに食らい付き、結果を出してくる何人かが目立ってくる。

 グループという外枠がなくなった後、個人戦になった時のその差は明白だ。峯岸みなみさんや朝日奈央さん、菊地亜美さんの現在のバラエティでの活躍は、アイドル時代から鎧を脱ぎ殻を破り続けた結果なのだと思う。

「スベるくらいなら、喋らない」という最低な思考

 ある日家で『ダウンタウンDX』を見ていて「羨ましいなぁ」と思ったことがある。

 バラエティ番組は、どんなに楽しく現場をやり過ごせても、芸人となると楽しいだけでは終われないものだ。ウケたらウケたで「なんとかやれた」と安堵のため息をつくだけだし、スベったらスベったで後悔のため息をつくばかり。

 MCがダウンタウンさんとなれば尚のことだ。あまりの緊張から記憶が飛ぶ若手は少なくないだろうし、普段の力を発揮することもなくその場を去る芸人も多々いることだろう。

 しかも『ダウンタウンDX』はほぼ生放送のように、まるで無駄のない進行で収録される。

 多くの豪華ゲストの中、毎回何名かの芸人が出演する。タレントさんやモデルさんや俳優さんがスベるのは許されても、芸人がスベるのなんて許されやしない。そんな「捨てる時間」は一秒たりとも存在しない。

 もちろん、たとえスベったとしても英雄ダウンタウンさんがなんとかしてくれる。だが、英雄の前で恥なんかかきたくない。

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