フジテレビ系バラエティ番組『ピカルの定理』へのレギュラー出演でお茶の間にその名を広く知らしめた平成ノブシコブシの二人。以降、現在に至るまで、テレビやネット、ラジオなど、さまざまな媒体で活躍を続け、順風満帆にキャリアを積んでいるように見える二人だが、徳井健太氏は相方の吉村崇氏に“殺意”のような感情を抱いていた時期があったという。

 ここでは、徳井健太氏のお笑いエッセイ『敗北からの芸人論』(新潮社)の一部を抜粋。お笑いコンビの奇妙な関係性について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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コンビは15年で「兄弟」になる

 まず、最初に言いたいのは、コンビは友達じゃないということ。コンビを夫婦に例える人もいるがこれも違う。

 僕が思うに、コンビは「兄弟」である。姉妹や姉弟、兄妹とも違う。男同士の兄弟。これにコンビというのは酷似している。……と言っておきながら僕には兄や弟がいないので本当のところは分からない。けれど個人的世論調査結果によると、コンビは兄弟。

 兄弟は仲が悪い。もちろん逆に仲の良い兄弟もいる。けれど周囲の話を聞いていると、兄弟の8割以上は仲が悪い気がする。仲が悪いとしても家族内の話である。だから仲が良かろうが悪かろうが他人には一切関係ないし、何かを言われる筋合いもない。

平成ノブシコブシの徳井健太氏(中央)©文藝春秋

 思春期を迎えて以降、ある一定の距離感を保ちながら数十年が経ち、60歳も過ぎたあたりに二人きりで酒を酌み交わすような関係になる―それが兄弟だ。どんなに仲が悪くても、縁までは切らない。そのこと自体が面倒だろうし、関わらなければ別に兄弟のままでも構わないのだ。

 コンビの仲もそれと同じだ。家族だから、兄弟だから、コンビだから。なので、仲が悪かろうが解散などしない。

 もっと言えば、コンビは結成15年で兄弟になる。そうなると、相方がどうなろうと知ったこっちゃないし、好きなようにしていたらいい。いつまでもわーわー言ってくる兄貴は嫌われる。ぶつぶつ文句を垂れ続ける弟には腹が立つ。

1度目の“解散”直後の雀荘で……

 僕と相方の吉村崇がコンビを組む「平成ノブシコブシ」は2022年でちょうど結成22年。7年前から我々は、兄弟になった。

 過去に解散の危機は何度かあった。というか、僕は常に解散しようと思っていた。だから吉村から「解散だ」と大きな声を出されたら、すぐに「分かった」と言うようにしようと決めていた。

 最初に「解散だ」と言われたのは、コンビ結成5年目くらいの頃。僕が寝坊をしたせいで起きた喧嘩が原因だった。今改めて考えなくても分かる、全部僕が悪い。悪いが、もう辞めようと決めていたので、吉村から大きな声で「解散だ」と言われた時、小さな声ですぐに「分かった」とだけ言った。

 その後新宿で麻雀を打ちながら「あー、これでようやく自信のないお笑いを辞めることができるなぁ、この先の人生は何をしようかなぁ」そんなことを考えていた。