これまで、赤肉、乳製品と、がんのリスクとなる可能性のある食材について解説してきました。しかし、これらの食材には「健康に役立つ」という別の側面もあります。特に日本人は元来赤肉も乳製品も海外と比べると摂取量が少なく、“常識的な量”であれば恐がる必要もない、ということを書いてきました。
しかし、本稿は違います。日本人も少なくない量を口にしており、健康を考える上で積極的に摂取量を減らすことを強くお勧めする食品について述べたいと思います。それは「塩」です。
塩は、人間の体にとって必要な成分です。ただ、汗などの量にもよりますが、普段とっているよりも遥かに少ない量で十分であることがわかっています。
日本人は塩分が好きな国民です。以前に触れましたが、栄養バランスのとりやすさで高く評価されている和食も、味付けの基本が塩である、という点が弱点となっていることは否めません。がん予防の観点からは、和食だけでは塩分過多になる可能性があります。
漬物を好む日本人にとって、塩分は古くから最も身近な調味料とされてきました。特に漬物の消費量が多い東北地方では摂取量が多くなるため、高血圧によりリスクが高まる脳卒中などの血管系の病気による死亡率が高いことはよく知られています。
しかし塩分が影響を与えるのは血管だけではありません。実はがんの発生とも、強い関係を持っていることが分かってきているのです。
塩分がリスクを上げるがんは、胃がんです。日本国内でも、特に「漬物」の消費量が多いことから塩分摂取量が多い秋田、山形、新潟などの県では胃がんでの死亡率が高く、反対に九州や沖縄など塩分摂取量の少ない地域では比較的低いことが明らかになっています。
食塩摂取量と胃がんリスクを検証した多目的コホート研究では、男性の塩分摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比較して約2倍の胃がんリスクが認められています。
食塩そのものだけではなく、塩分の含有量が多い食品では、もっと強い関係が見て取れます。みそ汁、漬物、たらこなどの塩蔵魚卵、塩鮭やめざしなどの塩蔵魚、塩辛や練うになどの塩蔵魚介類の摂取量と胃がんリスクの関係を調べてみると、やはりこれらの食品を多く食べている人ほど、男女ともに胃がんになりやすく、特に塩辛や練うにのような塩分濃度の高い食品において、その傾向が顕著であることが分かりました。
国際的に見ても、同様の評価がされています。
2007年に世界がん研究基金と米国がん研究協会が示した判定では、「塩分・塩蔵食品」が胃がんのリスクを高める可能性を“大”としています。
ちなみに、世界的に見た時に、日本と並んで胃がんの発生率が高い国に韓国があります。韓国も塩分摂取量において世界的にも上位にランクされており、同じアジアでもタイやインドなどのように塩ではなく香辛料による味付けが主流の国では、胃がん発生率も高くありません。
このようにあらゆる調査結果が、塩分と胃がんの関係性を裏付けており、これを認めることなくがん予防を実践していくことは困難といえるでしょう。
では、なぜ塩や塩蔵食品が胃がんを引き起こすのか。そしてどうすれば上手に塩分摂取量を少なくすることができるのかを、次稿では考えていこうと思います。