前稿ではコーヒーのがん予防効果について書きました。コーヒーには、リラックス作用だけでなく、がんの発生を予防する働きがあることが、多くの研究結果によって示されています。しかし、コーヒーは人によって好き嫌いがあります。コーヒーが苦手な人に「がんの予防になるから」と、無理して飲ませるのは野暮というもの。実は、コーヒーが飲めない人にも救いの手があるのです。それは「緑茶」です。
国立がん研究センターが実施した、40歳から69歳までの男女約9万人を対象とする多目的コホート研究によると、女性の場合、緑茶を「毎日5杯以上飲む」グループは、1日に飲む量が「1杯未満」のグループと比べて胃がんになる確率が約3割も低く、胃の「下部3分の2」に限ってみれば、がんになるリスクは5割も低いことが示されたのです。
緑茶にはカテキンというポリフェノールが含まれています。カテキンにはがん細胞の増殖を抑制する働きがあると言われ、世界中で研究が行われてきましたが、多目的コホート研究により、緑茶には一定のがん予防効果があることが見えてきたのです。
胃がんに対する緑茶の予防効果が確認できたのは女性だけで、男性では関連を認めませんでした。男性には喫煙者が多く、その発がん影響を打ち消すほどの効果はないのかもしれません(その後、国内6つのコホート研究を合わせた検討も行われ、同様の結果が得られました。このことからも、女性においては緑茶が胃がんを予防する可能性は期待出来ると思われます)。
また、男性特有のがんである「前立腺がん」において、やはり緑茶に予防効果がある可能性が示されています。40~69歳の男性約5万人を対象に11年間と14年間にわたる追跡調査をしたところ、緑茶を「1日当たり5杯以上飲む」グループは、「1杯未満」のグループと比較して、他の臓器に浸潤・転移していく進行性の前立腺がんのリスクがおよそ5割低下していました。転移せず前立腺内に留まる限局性のがんではなく、進行性の前立腺がんに限っていえば、緑茶を飲む回数が多いほどリスクが下がる――という結果が示されたのです。
これは緑茶に含まれるカテキンには、がん細胞が組織に浸み込んでいくことを防ぐ働きがあること、また、がんが転移する際に発現するMMP-2という物質を抑え込む作用を持っていることなどによるものではないか、と考えられています。
また、カテキンにはテストステロンやアンドロステロンなどの男性ホルモンの受容体の機能を抑え込む働きがあるため、性ホルモンが強く関与する進行性前立腺がんにおいて、リスク低減効果が大きいと見ることもできます。
国立がん研究センターの多目的コホート研究では、他にも大腸、肝臓、膵臓、膀胱、乳腺、甲状腺の各がんの発生リスクとの関係を調べていますが、残念ながら、緑茶が予防効果の可能性を示唆したのは女性の胃がんと男性の前立腺がんのみで、他のがんでは顕著ながん発生抑制効果は見られませんでした。しかし、少なくともこの2つのがん予防を考える上では、緑茶を飲んで損はない――と言うことができそうです。
緑茶はがん以外にも、脳卒中を予防する効果が示されています。お茶好きの日本人にとっては朗報と言えるでしょう。