その後はリトアニアからの輸出品が中国の税関を通らなくなるなど、中国が経済的な圧力強化に乗り出したとみられたため、リトアニアのナウセーダ大統領が「台湾」名義での台湾の代表機関設立を認めたことに対し、「誤りだった」との考えを示すなど、中国の巨大な経済力を背景にした外交的報復劇を印象づけた。
外交的ボイコットへの意趣返し?
孔氏が姿を消す直前の2021年12月は、22年2月開幕の北京冬季五輪に先立ち、新疆(しんきょう)ウイグル自治区や香港での中国政府による人権侵害を念頭に、英米などが外交的ボイコットを決定している。
日本も、これに歩調を合わせるかっこうで12月中には「基本的人権の尊重など普遍的価値は、中国においても保障されることが重要」などとして、政府代表団を派遣しない事実上の外交的ボイコットを決定した。
こうした動きの中、SNSでの過激な発言で知られる駐大阪中国総領事館の薛剣総領事はこの時期ツイッター上に日本語で「隣国同士として五輪の相互支援を政府の最高レベルで約束した。東京五輪の時に、中国は最大限の誠意をもって支援し、約束を果たした」と投稿。
「今、日本の番になっているので、当然の事ながら、北京五輪の支援を約束通りにしてほしい。同じ東洋人だから、これぐらいは守らないと困る」と日本に対し、けん制とみられる発言で釘を刺していた。
しかし、その後日本では、北京冬季五輪開幕直前、沖縄県石垣市が尖閣諸島で海洋調査を実施。また衆院では中国の新疆ウイグル自治区やチベット、香港での人権侵害に懸念を表明する決議を、与野党の賛成多数で採択している。これらの動向に対する不満の表明として、非公式に「大使召還」「外交関係格下げ」の形を継続している、という解釈だ。
中国大使館に尋ねてみると……
その姿勢を明確に公表しないのは、日本が北京冬季五輪の対応で「外交的ボイコット」という言葉の使用を避け、衆院の人権決議でも「中国」の名指しを避けた一定の配慮を汲んでの意趣返しとも考えられまいか。
言うまでもなく特命全権大使とは赴任先の国に対し、派遣元の国、政府の窓口となる最高位の責任者で、大使館周辺関係者も「日本のように関係緊密な国を担当する大使が、このように長期間不在というのは尋常ではない」と危惧する。例えばロシア軍のウクライナ侵攻の背後で2月27日、中国海軍のフリゲート艦が宮古海峡を通過したが、万一なんらかの偶発的な事態が生じた場合、大使の不在は、事態の過熱を阻止するのに不都合だ。
筆者は3月2日午後、電話で大使館広報部に大使の長期不在について取材したところ、担当者は「一時帰国中なのか」との問いに「そうだ」、また「病気なのか」との問いには「そうではない」と応じたものの、理由は明かさず任務に復帰する期日のめどについては、「いつ戻るかは、私どもではわからない」の一点張りだった。