「失脚説」の現実味は?
今年2月21日には、北京の日本大使館の職員が中国当局に一時身柄を拘束される事態が発生し、日本の外務省は外交官の不逮捕特権を定めた「ウィーン条約違反は明白」だとして厳重抗議したが、この際も、東京では楊宇臨時代理大使が、外務省の森健良事務次官の謝罪要求などに応対。楊氏は謝罪を拒否し、「本国に報告する」とのみ応じたという。本来なら外相が大使を呼び出して、強い不満や遺憾の意を示すべき事態だった。
孔氏は、中国黒竜江省出身の朝鮮族。上海外国語学院(現上海外国語大学)で日本語を専攻し、中国外交部(外務省)に入庁後は、2006~11年に駐日大使館で公使を務めるなど、約15年におよぶ日本勤務を経験。ベトナム大使やアジア局長なども経て2017年に外務次官となり、2019年、程永華氏の後任として駐日大使に着任した。
日本語が非常に流暢で、筆者の取材に対する回答も的確だった。また、その人となりをよく知る全国紙の元担当記者らは「上司に気兼ねせず、ずけずけと強気でモノを言う姿勢が印象的」という。
今回の長期不在について、失言、失態が本国で問題視された可能性については、台湾関連の舌禍、日本政府の対中強硬姿勢阻止の失敗など材料こそ多いものの、新春のあいさつや行事の祝辞などでは「大使」の肩書が生きており、「そこまでは考えにくいのではないか」とする推測が大方だ。
だとすれば、対外的に強硬姿勢を打ち出す今の習近平指導部の中国においては、日本側に「よく考えろ」といわんばかりに、突然リトアニア同様、格下の臨時代理大使に実務をまかせるという、外交的不満表明と見る方が説得力に富んでいるといえそうだ。
中国は、東京において台湾社会との非公式な接触チャンネルを維持している側面もあり(国民党政権時代には特にそうだった)、駐日大使不在は台湾社会に対する拒絶の意思表示にもつながる。ロシア軍のウクライナ侵攻の陰でクローズアップされた台湾海峡の平和と安定。大きな変数として立ちはだかる中国の思惑は、一体どこに主軸をおいているのだろうか。