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プーチンの陰湿な性格を垣間見る、宿敵・メルケルを陥れた“侮辱的な嫌がらせ”「プーチンはにやにやとしたサディスティックな笑みを浮かべて…」

『世界最強の女帝 メルケルの謎』より #1

2022/03/17

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 政治, 国際

FKKの謎

 近年、18歳のメルケルとされる若い女性が他の女友達2人とともに一糸まとわない姿で海岸付近と思われる場所を歩く白黒の写真がネット上に出回った。合成写真の可能性もあり、その真贋は定かではないが、もし本物とすれば、1970年代、東ドイツのヌーディスト文化(ドイツではFKKと呼ぶ)に参加していたメルケルの青春時代の1コマを撮影したものとみられる。

 北ドイツや東欧、北欧は日照時間が少なく、夏の間にたっぷりと陽光を浴びていないと、病気にかかりやすくなる。ヌーディスト文化にはそうした健康維持の目的もあり、若き日のメルケルが全裸で日光浴をしていた写真があったにしても何ら不思議ではない。それに、東ドイツでは、裸になることは身体的解放の表現であり、「許された自由」だった。

この写真はイメージです ©iStock.com

 しかし、ドイツ左派系紙『フランクフルター・ルントシャウ』電子版(2013年4月11日付)は驚くべき噂を伝えた。

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 このメルケルとされる女性の裸の写真はロシア情報機関がそのアーカイブからわざわざ探し出したものだというのだ。キプロスの金融危機に際し、メルケル政権が押し付けた銀行処理によってロシア富裕層が大損失を強いられたことへの報復として、ネットにばらまき、メルケルにささやかな復讐をしたのだという。

 キプロスは租税回避地・オフショア(海外)金融取引拠点として、ロシアの石油・天然ガスマネーが大量に注ぎ込まれてきた。EUは支援提供の条件として、大手行の高額預金の強制削減を実施することになった。

 そのEUの政策を取り仕切るドイツに対するロシア側の怒りが沸騰し、「キプロス危機はロシアを罰するためにドイツ情報機関が仕組んだ謀略だ」といった論調もロシアで盛んだった。この陰謀論に従えば、キプロス危機の背後のドイツに対する報復にロシアが乗り出したということらしい。信じがたい話だ。

 が、犬を嫌がらせの道具に使うプーチンの陰湿な思考法を考えると、あながち一笑に付すことができない感じもしてくる。

 ドイツ政府はこの写真の存在を無視し、一切のコメントを差し控える賢明な対応を取っている。ドイツの他の主要メディアはほとんど取り上げておらず、トルコや英国の新聞の一部が写真の謎を伝えているにすぎない。

 だが写真はロシアの対独情報戦の闇の一端につながっている可能性も否定できない。ロシアがほかにも恫喝の材料を隠し持っていると言わんばかりの事前警告として解釈できるかもしれないからだ。

 メルケルは学生時代、ロシア各地を旅行したが、東ドイツの党エリート候補としてモスクワに留学したとする噂もしつこかった。噂は虚偽であることが分かっているものの、ロシアの影の部分はメルケルに纏わりついて離れない。

後編へ続く

世界最強の女帝 メルケルの謎 (文春新書)

佐藤 伸行

文藝春秋

2016年2月19日 発売

プーチンの陰湿な性格を垣間見る、宿敵・メルケルを陥れた“侮辱的な嫌がらせ”「プーチンはにやにやとしたサディスティックな笑みを浮かべて…」

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