「被疑者は、神戸市須磨区居住の中学3年生『A少年』、男性14歳です」

 1997年6月28日、逮捕直後の記者会見。兵庫県警捜査一課長・山下征士氏(82)が明かした被疑者の“素性”に日本中が戦慄した。「酒鬼薔薇聖斗」と自ら名乗っていた被疑者は、この時から「少年A」と呼ばれることとなる。

 小学6年生だった土師(はせ)淳くん(当時11)が殺害されてから5月24日で丸25年になる。当時、捜査の現場では一体何が起こっていたのだろうか?

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 捜査一課長として事件の捜査を指揮した山下氏が、自身の受け持った多くの事件について書いた著書『二本の棘 兵庫県警捜査秘録』(KADOKAWA)より、神戸連続児童殺傷事件の一部を抜粋して転載する。(全2回の2回目/前編を読む)

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自分の中に住んでいることもある「魔物」

 そして、いよいよAの容疑が強まった6月中旬、捜査本部はA本人の「作文」を入手した。

「懲役13年」と題されたその手書きの作文は、彩花ちゃんの事件が起きた後の3月下旬から4月上旬にかけ、Aが同級生に命じ、パソコン入力・印刷を命じたものだった。

「少年A」逮後の記者会見の様子

「懲役13年」

 

 いつの世も…同じ事の繰り返しである。止めようのないものはとめられぬし、殺せようのないものは殺せない。時にはそれが、自分の中に住んでいることもある…「魔物」である。

 

 仮定された「脳内宇宙」の理想郷で、無限に暗くそして深い腐臭漂う心の独房の中…死霊の如く立ちつくし、虚空を見つめる魔物の目にはいったい“何”が見えているのであろうか。俺には、おおよそ予測することすらままならない。「理解」に苦しまざるをえないのである。

 

 魔物は、俺の心の中から、外部からの攻撃を訴え、危機感をあおり、あたかも熟練された人形師が、音楽に合わせて人形に踊りをさせているかのように俺を操る。それには、自分だったモノの鬼神のごとき「絶対零度の狂気」を感じさせるのである。とうてい、反論こそすれ抵抗などできようはずもない。こうして俺は追いつめられてゆく。「自分の中」に…

 

 しかし、敗北するわけではない。行き詰まりの打開は方策でなく、心の改革が根本である。