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「両親ともにAが殺害の実行犯であるとは微塵も思っていなかった」 極秘だった“少年A”早朝任意同行の一部始終《神戸連続児童殺傷事件から25年》

『二本の棘 兵庫県警捜査秘録』より #2

2022/03/14

genre : ニュース, 社会

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14歳「少年A」逮捕と同時に、自宅では家宅捜索が開始

 Aの取り調べを担当したのは、ベテランの警部補である。この警部補も、本部長賞詞の表彰を受けた3人のうちの1人だ。

 取り調べの様子を私は直接見ていない。だが、Aは当初事件への関与を否定していたものの、すぐに観念し、犯行を供述し始めたという。だが、Aの取り調べが続くなかでも、タンク山周辺では捜査員の聞き込みが続き、地元の婦人会30人がパトロールを実施していた。

 夕方になっても、まだAを任意同行したことはメディアに伝わらなかった。捜査本部にある須磨署の署長に新聞記者が問いかけた。

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「捜査員の休みは取れるんですかねえ」

 すでにAの自供は始まっていた。K署長は答えた。

「難しいやろな。長期戦になるやろうし……」

 台風8号が神戸市に接近し、神戸海洋気象台では風速25・7メートルを記録。外が荒れ模様となった午後7時5分、捜査本部は殺人、死体遺棄の疑いで逮捕令状を執行した。兵庫県警が、警察庁幹部に容疑者逮捕を伝えたのは午後7時10分のことだった。

 14歳少年A逮捕と同時に、Aの自宅では家宅捜索が始まった。午後8時半、兵庫県警広報課が報道機関に記者会見を開くと連絡。テレビがいっせいに「容疑者逮捕」の速報を流した。

兵庫県神戸市のJR三ノ宮駅で「中3生を逮捕」の号外を読む人 ©共同通信社

 午後9時過ぎ、強風が吹き荒れるなか報道陣や野次馬が須磨署の前に集まり、一時、現場は大混乱に陥った。逮捕の高揚に沸き立つ捜査本部で、私は須磨署長とともに、14歳少年逮捕の記者会見に臨むため、私は兵庫県警の広報担当官とともに資料を整理していた。

 この事件では、広報官は情報公開を要求するメディアと、保秘を優先せざるを得なかった捜査本部の板挟みになり、苦しい立場に立たされ続けたことを私は知っていた。

 会見時刻が迫ったとき、広報官が大声で宣言した。

「それでは、行きます!」

 すると、その場に100名以上いた本部の捜査員たちから、期せずして大きな拍手が巻き起こった。

 自信に満ちた広報官の晴れ晴れとした表情を見たとき、初めて嬉しさがこみあげてきた。後に、記者会見を中継したNHK、フジテレビの視聴率はそれぞれ瞬間最高で46・2%、17・9%だったと聞かされた。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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