14歳「少年A」逮捕と同時に、自宅では家宅捜索が開始
Aの取り調べを担当したのは、ベテランの警部補である。この警部補も、本部長賞詞の表彰を受けた3人のうちの1人だ。
取り調べの様子を私は直接見ていない。だが、Aは当初事件への関与を否定していたものの、すぐに観念し、犯行を供述し始めたという。だが、Aの取り調べが続くなかでも、タンク山周辺では捜査員の聞き込みが続き、地元の婦人会30人がパトロールを実施していた。
夕方になっても、まだAを任意同行したことはメディアに伝わらなかった。捜査本部にある須磨署の署長に新聞記者が問いかけた。
「捜査員の休みは取れるんですかねえ」
すでにAの自供は始まっていた。K署長は答えた。
「難しいやろな。長期戦になるやろうし……」
台風8号が神戸市に接近し、神戸海洋気象台では風速25・7メートルを記録。外が荒れ模様となった午後7時5分、捜査本部は殺人、死体遺棄の疑いで逮捕令状を執行した。兵庫県警が、警察庁幹部に容疑者逮捕を伝えたのは午後7時10分のことだった。
14歳少年A逮捕と同時に、Aの自宅では家宅捜索が始まった。午後8時半、兵庫県警広報課が報道機関に記者会見を開くと連絡。テレビがいっせいに「容疑者逮捕」の速報を流した。
午後9時過ぎ、強風が吹き荒れるなか報道陣や野次馬が須磨署の前に集まり、一時、現場は大混乱に陥った。逮捕の高揚に沸き立つ捜査本部で、私は須磨署長とともに、14歳少年逮捕の記者会見に臨むため、私は兵庫県警の広報担当官とともに資料を整理していた。
この事件では、広報官は情報公開を要求するメディアと、保秘を優先せざるを得なかった捜査本部の板挟みになり、苦しい立場に立たされ続けたことを私は知っていた。
会見時刻が迫ったとき、広報官が大声で宣言した。
「それでは、行きます!」
すると、その場に100名以上いた本部の捜査員たちから、期せずして大きな拍手が巻き起こった。
自信に満ちた広報官の晴れ晴れとした表情を見たとき、初めて嬉しさがこみあげてきた。後に、記者会見を中継したNHK、フジテレビの視聴率はそれぞれ瞬間最高で46・2%、17・9%だったと聞かされた。
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