その後、大岡寺は安楽寺に仏像を返すよう求めたが、安楽寺はこれを拒否。正当な手続きを踏んだ上で取得したものだとして、15年8月、文化庁に、仏像2体の所有者変更を届け出た。しかし、文化庁は「当事者間で整理されていない」として、所有者変更を認めず、一方の大岡寺は、安楽寺が所有者変更を届け出た直後に、文化庁に盗難届を提出した。
「仏像が盗まれた」と主張する大岡寺と、「仏像は正当に取得したものだ」と主張する安楽寺。両寺の主張は真っ向から対立し、必然的に事態は法廷へと持ち込まれることになった。
争いの舞台は法廷へ
まずは安楽寺が16年3月、大岡寺がある滋賀県の大津地裁に対し、仏像2体の所有権の確認を求める訴えを起こした。一方の大岡寺も翌17年、安楽寺に対し、仏像2体の引き渡しを求めて反訴。2件の訴訟は併合され、2体の仏像の所有権は法廷で争われることとなった。
訴訟の中で、安楽寺側は当初、2体の仏像について「2006年に大岡寺から無償譲渡、引き渡しを受けた」と主張していたが、その後、「2015年に檀家から寄進を受けた」と、その主張を変遷させた。
これに対し、大岡寺側は、06年に安楽寺側に無償譲渡したという事実を否認した上で、「15年に檀家から寄進を受けた」という安楽寺側の主張も「そんな事実があったとは思われない」とした。
また安楽寺側は、「檀家から仏像2体の引き渡しを受けた15年の時点で、文化庁や大崎警察署に、盗難の被害届が出ていないことを確認しており、仏像の所有者が檀家であると信じていた」とも主張していた。が、大岡寺側は「そもそも警察に確認に行くこと自体が、(安楽寺が)檀家の所有権を怪しいと疑っていたことを示すものだ」などと反論したのである。
ようやく仏像が返ってくる……はずだった
文化財保護法は、重要文化財の所有者が変更した際には、新所有者や旧所有者、管理場所などを記載した必要書類を添えて、20日以内に文化庁長官に届け出なければならないと定めている(32条)。
仮に、「15年に檀家から寄進を受けた」という安楽寺側の主張が事実だとすれば、だ。15年までに、その「檀家」から文化庁に対し、所有者変更の届けが出された形跡はなく、安楽寺は、法に定められた届け出もしていない人物から、仏像2体を譲り受けたことになる。
両寺は2年近くにわたって、仏像の所有権をめぐって争い続けたが、大津地裁は18年1月、判決で「国の重要文化財である仏像が正規の取引によって転々流通すること自体が考え難い」と指摘。「安楽寺には、仏像の来歴に注意を払わなかった過失があった」などとして、大岡寺側の訴えを認め、安楽寺側に対し、2体の仏像を大岡寺に引き渡すよう命じたのだ。
15年もの間、その行方が杳としてしれなかった2体の仏像を元の寺に戻すよう命じたこの判決は当時、地元の新聞やテレビでも大きく報じられ、騒動はハッピーエンドで幕を下ろした……かのように見えた。