韓国大統領選挙における「尹錫悦当選」は奇跡に近い。「20年執権」を豪語していた文在寅・左翼勢力が、政治アマチュアの野党候補・尹錫悦の登場で政権をひっくり返されてしまったのだ。

 文在寅は5年前、「ローソク・デモ」で朴槿恵政権を打倒し政権を握ったため「市民革命」と自称していたが、今度は投票という「選挙革命」で権力を明け渡すことになった。

韓国大統領選挙に勝利した尹錫悦氏 ©AFLO 

 尹錫悦は文在寅によって検事総長に抜擢され、文在寅によって追放された人物だ。そのお陰で「権力(文在寅)に屈しない正義の味方」として国民的人気を得た。次期を狙える有力候補がいなかった野党・保守陣営は彼に飛びつき彼をかついだ。わずか8か月ほど前のことである。

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 したがって無名の男、尹錫悦をあっという間に大統領にしてしまったのは文在寅なのだ。実に皮肉な展開である。「朴槿恵弾劾、追放!」を叫ぶ数十万のローソク・デモが連日、ソウル都心を埋めて文在寅政権を誕生させた同じ国民が、5年後には選挙でその政権を退陣させたのだ。

「ゼレンスキーのような政治アマチュア」

 韓国政治はいつも意外性に満ちてドラマチックだが、今回の尹登場と保革の大逆転劇もどこか革命的である。

 朴政権打倒の際は、あることないこと情報乱舞のなかで“魔女狩り”にも似た人びとの政治的熱狂と弾劾無理強いが印象的だったが、今回は配偶者疑惑などいわゆるネガティブ・キャンペーンの乱打戦にもかかわらず「ワーッ」という感じはなかった。

 その結果が政権交代だから、韓国政治は見事な修正能力を発揮したことになる。

 尹錫悦は韓国政治史ではまったく異例の指導者である。以前には朴正煕や全斗煥など無名の軍人がクーデターで大統領になったことはあるが、全く政治経歴の無い無名の人物が堂々と選挙で大統領に選ばれたというのは初めてだ。