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「あんまり目立つ子じゃなかったですねえ。お兄さんの方が目立っていた」大谷翔平も通った“国宝級の輝きを放つ”バッティングセンターの歴史

『日本バッティングセンター考』より #1

2022/03/24
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 <現代の・あなたの最高の健全娯楽 雨の日でもみんなで楽しめます 前沢バッティングセンター 来る23日(秋分の日)午前9時 前沢バイパス北入口にいよいよオープン バッティング技術向上に 学校での、職場でのストレス解消に 是非御利用ください。 いい当り!気分爽快! ●お会計 1ゲーム(10五球)100円 ※営業時間 朝6時から 夜9時まで お1人でも・グループでもお気軽にお出でください。 ★オープン当日、ささやかな記念品贈呈。>(昭和52年9月21日付・岩手日日新聞)

開店当日に地元新聞に掲載された広告(著者撮影)

 広告の成果はすぐに結果として表れた。

「オープンしたらウチも大流行り、通路も歩くところがないんですね。行列を見ていたら“もったいないな、このお客さんをなんとかできないかな”と思ってね、それで卓球も一緒にやり始めたんですよ。人件費もかからない、在庫も抱えないからね。

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 それで卓球台を4台用意したんだけど、卓球場もすぐに数時間待ちになってね。そしたらそれを見た人が、近所に7台ある卓球場をオープンしたんですよ。でも半年したらすぐに閉めちゃった。

 やっぱり卓球だけじゃダメなんです、バッティングセンターと併設することによってね、相乗効果を生んで安定した収入になったんです。そして場所、国道4号線で沿いやらないと、やっぱりお客さんもわからないよね」

最盛期を迎える前沢ファミリーランド

 これもまた、複合型レジャー施設が誕生する典型例である。後述するが、以降も前沢バッティングセンターは多くの施設を増やしていく。こうして経営を軌道に乗せた小林は、会社を退職し、自らの事業に集中できる環境を整えることに成功。そして前沢ファミリーランドは最盛期を迎える。

前沢バッティングセンターの向かいには別館があり、レンタルルームとして活用されている(著者撮影)

「最初は、今は空き地になっている向かいの土地で、バッティング4打席、卓球台4台でやってたんです。それで、今のこの土地は、もともと田んぼだったんですけど、我が家も広い田んぼを持ってたんで、“交換しませんか?”と。持ち主にそう話ししたら“本当ですか?”と喜んじゃってね。それでこの土地に移動して、カラオケも一緒にやり始めたんです。

 バッティングセンターも、ただ練習するだけではなくて、何かお客さんがまた来たくなるような企画をずっと考えてやってきたんですね。くす玉を吊るして、当たったらホームラン賞として、日付や名前が入ったトロフィーや記念写真をプレゼントしたりね。それで面白いのが、開店と同時にものすごい数のお客さんが来るんですけど、くす玉が割れるとサーっと帰っちゃうんですよ。

 だから10時、13時、17時とくす玉を付け直す時間を決めていたんですけど、その時間になるとみんなまた来るんです。あれが楽しみでみんな来ていたんでしょうね、やっぱりただ打つだけじゃ面白くないもん。今じゃどこもやっていることだけど、あの時は珍しかった。

客足を絶やさぬ様、サービス券やプレゼントなど工夫を重ねている(著者撮影)

 あとは、遊んでくれた人にはサービス券も渡すんですけど、その日には使えないんです。そうしたら翌日以降また来るよね。バッティングセンターで一番大事なのはアイデア、楽しんでもらうために40年以上ずっとアイデアを出してきたんですよ」