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2022/03/28

一方で作品のクオリティはアップ

 それが今は、酷な言い方かもしれませんが、足手まといになりかねない新人をキャスティングしなくてもいい現場になってしまいました。新人に勉強の場を与えるよりも、彼らがリテイクに費やしていた時間を主役級の方たちの演技のさらなる追求に充てた方が、作品自体のクオリティアップに繋がります。それ故、僕たち音響監督やプロデューサー、あるいは監督が積極的に新人声優を起用する必然性がなくなってしまったのです。

 皮肉な話ですが、これが現在のアニメ音響現場の実態です。僕たちは第一に目の前の作品をいいものにすることに注力しますし、作品のファンにとっても技術力のある声優が揃っていい演技をしてくれた方が嬉しいでしょう。作品単体のキャスティングだけに限って言えば確かにいい環境になったのです。しかし、それが中長期的に見て声優業界にとって本当の意味でいいことだとは言えません。

あぶれた後の行き着く先は……

 足手まといになる人は要らない、となると、アニメの現場からあぶれた新人声優はどこへ行くのでしょう。言い方が悪くなってしまいますが、多くの場合、音響制作費の安い現場に流れていくことになります。

 アニメの現場はそうでもないのですが、外画(海外の映画)の吹き替えの現場などは動画配信サービスが盛んになり、輸入される本数が増えた結果、1作当たりの制作費が頭打ちになり、今かなり厳しい状況だと聞いています(僕自身は外画の仕事はあまりやらないので伝聞になってしまう点はご容赦ください)。

 また、昔の海外テレビドラマシリーズ全何十巻という形で毎月小出しにして売るようなパッケージビジネスの場合、過去テレビ用に収録したアフレコの音声は版権料の問題で使えないため、新たに収録し直すことになります。

 結果、通常より安い制作費で作る必要があるため、1人か2人有名な声優を入れ、他は全員養成所の生徒や養成所を出たばかりの新人たちを呼んで収録することになります。海外の映画やドラマの場合、喜怒哀楽の表現(役者の表情やジェスチャー)が派手なので、多少声の表現が拙くても成立してしまうのです。

©️iStock.com

 また、今ならアプリゲームの声優として使ってもらえるというケースもあります。ただし音響制作費をギリギリまで絞った作品もあり、中には声優の自宅に台本や録音機材一式が送られてきて、自分で声を収録してデータを送るというケースもあるそうです。Zoomなどのビデオ通話で指示があるケースはそれでもまだいいですが、共演者はおろかディレクターさえもいなければ、新人声優がそんな仕事をいくら繰り返しても何がいい演技で何が悪い演技なのか身に付けようがありません。

 ちなみにアニメでも宅録(自宅での収録)が試された現場があったそうですが、集まってくる台詞の音質がバラバラで使いようがなく上手くいかなかったようです。

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