コロナ禍で3密回避のアフレコに
ところが、そういった新人にとって学びのあるアフレコ環境は新型コロナの影響でなくなりました。なぜなら、アフレコ現場は防音のため非常に密閉された狭いスタジオ内に声優が密集しており、マイクを囲んで密接して大きな声を出すという、まさに「3つの密」を体現したかのような場だったからです。3密回避のため、今は多くても4人、少なければ1人や2人という単位でアフレコをしています。
特にベテラン声優はご高齢の方も多いですから、事務所側から「他の人とは一緒にアフレコさせないでください」というオーダーが出ている場合もあります。その場合はその方だけ先に抜き録り(他の声優との掛け合いなしに1人で収録をすること)をし、次に掛け合いの多いメインキャストを呼んで1時間や1時間半くらい使って収録をし、最後にいわゆる脇役、ガヤ(学校内や街中などの、主役級ではないその他大勢によるがやがやした声)要員と言われる新人声優の人たちが来て1人ずつ一言二言の台詞を収録する、というような流れになりました。
するとどうなるか。当然、新人声優は自分よりキャリアとスキルがある先輩声優と現場を共にする機会がなくなります。それによって、せっかくデビューできたにもかかわらず本来できていたはずの学習ができず伸び悩んでしまい、能力的にそこ止まりになってしまう、ということに陥りやすい環境になってしまったのです。
ただし、これは声優のマルチタレント化や視聴者に好まれる作品内容の傾向など複数の要因によって以前から徐々に進行していた変化でした。決定的だったのは新型コロナの影響ですが、仮にそれがなかったとしてもそういった状況はどんどん顕著になっていたことでしょう。
また、これは既に現場に立っている新人の学習機会に関することですから、新人がデビューできなくなった直接的な理由ではありません(実際には、以前は「技術的にはいまいちだけど何か光るものがあるからとりあえず現場に立たせてみよう」という判断もあり得ましたし、それが見込めなくなったという意味で直接的な理由の一つでもあるのですが)。
新型コロナはもっと直接的な理由で新人デビューの機会を消し去ったのです。